差別が議席になる日
参院選で外国人排斥がどうして盛り上がるのか。30年以上前、労働省を担当していた時、バブル最盛期で、労働力不足を補うために外国人労働を認めるべきだという議論が高まった。もちろん反対論も強かった。結果的に導入されたのが現在の技能研修生の拡大だった。当時、来日していたドイツ総同盟に議長にインタビューした。「個人的には国境を開放しないほうがいいと思う。でも、60年代のドイツの急成長を支えてくれたのは外国人労働だったし、現在の労働者の一割は外国人。税や社会保障を支えてくれるのは外国人。ドイツは外国人なしではやっていきなくなっている。そういうことも考えて日本は判断するべきだ」というのが回答だった。当時のドイツの外国人はトルコ、イタリア、ユーゴスラビアが中心だった。トルコ人がドイツで働いて、定年後はトルコに帰ると”王侯貴族”並みの余生が送れる。そんな話もあった。いまの日本はどうだろう。韓国も台湾もとっくの昔に外国時に労働市場を開放している。日本は技能研修生しか認められていない。円安で賃金も目減りしている。そんな日本で働いてくれるだけで感謝すべきだと思っている。

参政党が今回、躍進している理由の一つが「日本人ファースト」だろう。賃金が増えないのに国民負担が増えている。うっ積した不満のはけ口を外国人の存在にしている。そんな中からSNSではヘイトスピーチの急増している。今まで外国人問題を口にしてこなかった新興政党にまでそんな風潮が広がって来た責任は小さくない。
司馬遼太郎さんは、小説『菜の花の沖』の中で小説の中で主人公の嘉兵衛に「他の国を譏(そし)らないのが上国だ」と言わせている。なかなか含蓄がある。19世紀、日本がまだ開国に到らない時期、淡路島の水夫から身を起こし、蝦夷地と上方とを結ぶ大回船問屋に発展させた高田屋嘉兵衛の一生を描いた小説で、愛国心ということについて語っている。

「愛郷心や愛国心は、村民であり国民である者のたれもがもっている自然の感情である。その感情は揮発油のように可燃性の高いもので、平素は眠っている。それに対してことさら火をつけようと扇動するひとびとは国を危うくする」
参政党の日本人ファーストは国民の微妙な心理をついたもので、これまで眠っていた日本人の心に火をつけたといっていい。
もう一つの理由は左の表だ。30年前と比較して国民生活が苦しくなった理由が歴然と表している。僕自身、SNSにシェアしてすぐ削除した経験がある。参政党のSNSに酷似した表があったからだ。この表にうそはない。収入は減っている一方、社会保険料や消費税など負担は二倍、三倍になっている。これが自公政権30年の”成果”だったことが改めて分かる。この比較表を見て怒らない国民はいないだろう。この一枚の表の拡散が、自公離れ、参政党躍進につながっているはずだ。参政党は羊の皮をかぶった狼だと考えているが、この比較表にはうそがない。
一方、宮城県の水道事業を外資に売ったと批判した参政党の神谷代表に対して、村井宮城県知事が「誤情報」と抗議した問題が浮上しているが、宮城県が売却した先の「みずむすびマネジメントみやぎ」(社員30人)は確かに筆頭株主がメタウオーターなのだが、実際に運営に当たる子会社の「みずむすびサービスみやぎ」(社員269人)の株主構成はフランスのヴェオリア・ジェネッツが51%の支配権を持っている。なんでこんなややこしいことをするのか、分からないが、外資企業に売却したことを隠す意図があったとしかいいようがない。宮城県がヴェオリアにしてやられたのだ。村井知事は「水道料金の値上げには県議会の承認が必要」と県が支配権を持っているように語っているが、運営企業が値上げを求めれば議会が認めざるを得ない。これまでの経緯と同じ。怒れば怒るほど、村井知事が窮地に陥るに違いない。一年以上前、代表の神谷宗幣が参院にこの問題に関して克明な質問主意書を提出していることも付け加えておきたい。神谷は実はよく勉強しているのだ。

