マルカの長い旅 書評
元旦にミリヤム・プレスラー著「マルカの長い旅」を読んだ。この本の存在を知ったのは日経新聞の文化欄の「ラヴォツネのコーヒー ドイツ文学者・松永美穂」を読んだからだ。松永美穂氏は「マルカの長い旅」の翻訳者だった。小説の舞台を旅し、マルカたちが住んでいたラヴォツネにたどりついた。そのラヴォツネは小説の中ではポーランドだったが、松永氏が訪れた時はウクライナだった。ラヴォツネへの旅は短いものだったが、駅舎で休んでいる時に、近所の女性が一杯のコーヒーをごちそうしてくれた。そんな松永氏の一期一会に対するイメージが膨らんで、この本だけは読まなければならないと思った。本は2010年初版だったが、もう絶版だったので古書店から取り寄せた。読後感を問われたら、「この本がなぜ日本でベストセラーにならなかったか」としか答えられない。
ポーランドとハンガリー国境の村で医者をしていたハンナと二人の娘はナチスドイツの侵攻によって、ある日突然、着の身着のままで村を逃げ出さなければならなくなった。父親は数年前に、パレスチナに建設が始まったキブツに移住していた。そうハンナ親子はユダヤ人だったのだ。
ユダヤ人狩りはドイツで起こり、占領されたポーランド西部でも始まっていた。ハンナは医者でもあり、ドイツ人兵士の治療も行っていたから「特別の存在」と考えていたが、やがてそれは単なる希望であったことを知る。3人は徒歩でハンガリーを目指した。持ち物は身分証明書だけだった。
多くの人に助けられながら逃避行は続いた。主人公のマルカは7歳だった。姉は16歳でもう大人の判断力と行動する力を持っていたが、マルカにはそれがなかった。そのマルカがある日、高熱に悩まされ、大人たちと行動する力を失った。世話になっていた国境の村の山小屋の主がマルカを預かることになった。母親のハンナはマルカを置いていくことに罪悪感を感じたが、一緒に行動する人たちにたしなめられてマルカと別れる決断をする。
山小屋の主はマルカの熱が下がったら、ハンガリーの町までつれていくことを約束していたが、旅の途中でマルカを置いてけぼりにしてしまった。それからマルカの長い旅が始まる。