「葵の葉って実際にみたことありますか」
 そんな疑問からワシントン在住のシンクタンカー、中野有さんと上賀茂神社を訪ねたは昨年の正月。権禰宜の村松晃男さんらと葵の復活について話し込んだ。日本最古の祭りである葵祭や徳川の紋章などを通じて、葵の存在を知らない日本人はいない。にもかかわらず「葵」を実際に見た日本人はほとんどいない。日本の象徴のような「植物」が現在の日本人に知られていないのはなぜか。
 村松さんの話によれば、その昔、加茂川上流一帯は湿地でフタバアオイが一面に群生していた。上賀茂神社の歴史も葵とは切っても切れない。葵祭は平安京遷都後、まもなく始まった。天皇家や貴族らが京都御所から下鴨神社を経て上賀茂神社にお参りするきらびやかな行列は鄙だった山城の人々にとって大いに目の保養になったに違いない。
 現在の観光客の多くは気づいていないかもしれないが、当時から行列の牛車には必ず、上賀茂神社のシンボルだったフタバアオイのつるを飾ることになっている。そのフタバアオイが神社一帯から姿を消して長い年月が経っている。現在、葵祭に使うフタバアオイは神社の北に控える神山の中腹でかろうじて採取される。つまり京都の人でさえフタバアオイの姿を目にしなくなって久しい。このままいくと中腹でさえフタバアオイがとれなくなるかもしれないというのだ。
 そんな話を聞いていて、中野さんが「それは大変なことです。フタバアオイを復活させましょう」と問いかけたのが葵プロジェクトの始まりとなった。上賀茂神社は京都市教育委員会や近隣の学校に声をかけて、フタバアオイ育成に乗り出した。
 中野さんの話によれば、京都は地球温暖化防止の京都議定書を通じて世界的に「環境」のキーワードになっている。ワシントンでも京都を話題にすれば必ず、環境問題に話が発展するということなのだ。加えて、原爆投下で京都を外すことに尽力したヘンリー・スチムソン陸軍長官の話もされ、「葵を平和の葉として世界に売り込むことはできないか」という問題提起があった。
 中野さんは京都市出身。上賀茂神社近くで生まれ育った。アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカで仕事をし、日々、国際情勢のコラムを執筆している。そんな中野さんがようやく平和のシンボルとして見出したのが、生まれ育った上賀茂のフタバアオイなのだ。いい話だと思いませんか。
 ちなみにフタバアオイの生育はけっこう難しく、昨年春にいただいた鉢植えを枯らしてしまった経験がある。ことしはぜひ大きく育て、友だちに分けてあげるようにしたい。葵プロジェクトは上賀茂一帯にフタバアオイを繁らせ、さらに日本全国に広げる運動である。みなさんも葵プロジェクトに参加しませんか。

 15日、京都新聞に「葵の森」復活へフタバアオイを移植 上賀茂小の児童ら」の記事が掲載された。「おー、ついに始まったか」という感慨があった。
 http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2007031500027&genre=F1&area=K1A