2007年03月19日(月)Nakano Associates シンクタンカー 中野 有

  ゴールドマンサックスとドイツ銀行によると、2010年に、ブラジル、ロシア、インド、中国(頭文字をとりBRICs)の経済力がG7と並び、2025年 にはG7の倍になるとの信じられない予測がなされている。戦後、西側を中心に国際秩序が成り立ってきたが、この体制が崩壊しつつある。
 では、新国際秩序とは、どのような形態を意味するのであろうか。様々な要因があろうが、その中心は中国であり、中国の外交政策の変化が冷戦崩壊にも大きく影響したとの興味深い主張がある。
 冷戦の勝利を導いた勢力に関する分析が、ワシントンのシンクタンクであるウッドーロー・ウィルソンセンターのシンポジウムで討論された。レーガン、ゴルバチョフ、中国の3つの視点で発表がなされた。

 第一、米国の外交戦略が冷戦の勝利を導いたという見方
 レーガンは概して3つの戦略を巧みに駆使した。1)米国の軍事力、経済力が「悪の帝国」ソビエトに勝利するというハードパワーの理論、2)ソビエトとの 信頼醸成の構築とデタントによる核・ミサイルの軍縮交渉、3)ゴルバチョフとの個人の信頼関係を重要視する。

 第二、ソビエトの内部崩壊
 ゴルバチョフがソビエト共産主義体制への国民のフラストレーションをペレストロイカ(改革)、グラスノチス(情報公開)で具現化した。ゴルバチョフが冷 戦崩壊の立役者であるとの見方。これは余談だが、1991年夏のクーデターがなければ、現在のプーチンの存在はなかったとの見方もある。

 第三、中国の巧みな戦略
 これはコーネル大学のチェン・ジャン教授の見解である。70年代初頭のキッシンジャーと周恩来の北京での対談を経て、資本主義VS共産主義というイデオ ロギーの対立が変化し、中国は、次第に第三の道への転換、すなわち社会主義体制を維持した市場経済システムの導入が、開放政策を指揮する鄧小平により具体 化されるのである。ソビエトの勢力を米中の協力で封じ込め、中国の世界市場への参画という米中の利益の一致が、冷戦終焉に大きく影響したとの考察である。 加えて、ベルリンの壁崩壊5ヶ月前の天安門事件にて、中国の若者が戦車の前で抵抗する映像は、東欧の民主化を加速化させたとの主張である。
 今まで冷戦の勝利は、レーガンの外交戦略にあると思っていたが、キッシンジャーと周恩来の巧みな米中戦略がソビエト崩壊へと導いたとの見方も説得力があると考えられる。
 周恩来は、フランスと日本(法政大学、明治大学)で勉強し、アフリカへも8回歴訪している。現在の中国のアフリカ諸国への関与、そして国連や上海協力機 構を通じた多国間外交は、周恩来のプリンシプルが貫かれているように思われる。台湾の国連常任理事国の地位を北京に持ってきた外交交渉は、キッシンジャー と周恩来の勢力均衡型リアリズムの成果である。
 冒頭で、ブラジル、ロシア、インド、中国のBRICsの経済力がG7と数年の内に並ぶと述べたが、中国、ロシア、中央アジア諸国(カザフ、キリギス、タ ジキ)で構成される上海協力機構(SCO)には、インド、イラン、パキスタン、モンゴルもオブザーバーとして入っており、まさにこの上海協力機構の勢力が G7に対抗する勢力になると予測される。
 中国を中心とる上海協力機構の公用語は、中国語、ロシア語であり、宗教的には、イスラム教の色彩も強い。ロシア、中央アジアそしてイランの協力体制でエ ネルギーの安全保障が構築され、1兆ドルの外貨を保有する中国の金融力と製造力、そしてハイテクのインドの技術力が結びつくことにより大きな経済圏が形成 される。G7と上海協力機構が新しい新国際秩序を構築するのであろうか。
 中国が冷戦の終焉に関し大きな影響力を及ぼしたという見方が正しければ、そのシナリオを描いたキッシンジャーと周恩来の戦略を再考する必要がある。ま た、それと同じように21世紀の今日も米中の接近が新国際秩序構築の推進力となると考察される。日本は、米中の巧みな外交戦略を読み、日本、米国、中国の トライアングル関係の中で、新国際秩序の構築に影響力のある外交、経済戦略構想を描く必要があると考察する。

 参考文献 Deniel W, Drezner, The New New World Order, Foreign Affairs March-May 2007

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