状を分 析し、未来に向けた明確な平和のためのビジョンである。膠着した現状を打開し、当事国、地域のみならず、外交交渉に関わるすべての国が恩恵を享受できる新 構想でなければ、国際社会のコンセンサスは得られないと考察される。
 ワシントンにある民主党系のシンクタンク、Center for American Progressで開催された”The history and future of nuclear weapons”というセミナーに出席した。講演者のジョセフ・シリンシオン氏の構想は、イランの核問題に関し現状分析を超えた将来へのシナリオが明確に 示されている意味において、新鮮な視点を感じ取ることができた。この構想からイラン問題への解決に向けたヒントが読み取れるので、セミナーの概要を踏まえ イラン情勢を考察したく思う。
 ブッシュ政権は過去6年間、一貫してイランの核開発に立ち向かってきた。しかし、ブッシュ政権のイランとの直接交渉を回避してきた戦略が、結果的には、 イランの核保有への野心を高揚させているのみならず、イランの核開発を推進させる構図になっている。イランの核疑惑施設への軍事攻撃も現実味を帯びている 状況の中、バグダッドで米国がイラン、シリアと同席し、国連常任理事国、EUの参加のもとでイラク国際会議が開催された。作業部会も行なわれることになり 建設的な会議だったとの報道がなされている。
 ブッシュ政権の最近の外交政策は、北朝鮮やイランへの対話路線に変化している。その背景には、チェイニー副大統領の側近のスキャンダルなどでチェイニー 副大統領の求心力が低下したこと、それに伴いライス国務長官の実利的な関与政策と、それを支えるゲーツ国防長官の柔軟な軍事政策が勢力を高めてきたとの観 測がなされている。
 ブッシュ政権の支持率は30%、そして残す任期20ヶ月で、どのような有効な米国の外交政策の選択肢があるのであろうか。イランの核問題に関する米国の 外交政策として、次の5つのシナリオが考えられる。現状維持、軍事関与なしで政権を変える、イランの核施設への軍事攻撃、大局的交渉(grand bargain)、封じ込め建設的関与戦略(contain and engagement strategy)である。
 この5つのいずれの選択肢でも、イランの核への野心を挫くことができる保証はないが、最も説得力があるのは封じ込め建設的関与戦略であると考えられる
 第一、現状維持 ベトナム戦争や現在のイラク戦争の教訓から、米国が分断された状況の 中での現状維持政策は、不安定要因を増し、好まざる結果を招くと考えられる。ブッシュ政権は、イランへの直接交渉を回避し、国連安保理を通じた交渉に委ね てきた。この政策では、イランの核開発と核開発の断念との費用対効果を転換させることは期待できない。
 第二、体制変換 イランの反体制派や改革主義者に協力し、イラン内部への干渉を強化す ることで保守強硬派の勢力を緩和させる。イランは急激な人口増加により、若年層の割合が高く、民主主義や実利主義への潜在性は高い。しかし、仮に強硬派、 実利主義派、改革派の対立の中、現体制の変換が達成されても、イランが核兵器の野心を放棄する保証はない。加えて、米国の干渉は、裏目に出て反米勢力が増 す可能性もある。
 第三、イランの核施設への攻撃 ペルシャ湾に配置された空母からの軍事攻撃が仮に成功 しても、その影響並びにその後の対策は未知数である。イラン空軍の攻撃を受けることはないが、イラクにおいイランが支援するシーア派の地上軍による米軍へ の攻撃、イランの国際テロ組織を通じた報復が予測される。イランの核施設が破壊されても、イランのエンジニアが持つ専門技術は継承される。軍事的攻撃が逆 効果となり、イランの核開発を加速される可能性もある。ホルムズ海峡の封鎖などで、石油価格が一時的に100ドルを越えることも考えられ世界経済に与える 影響は深刻である。
 第四、大局的交渉(grand bargain) 大局的交渉は、New American Foundation(ワシントンのリベラルなシンクタンク)のフュリン・レベット氏により提唱されている。核問題に関する外交的解決のためには、ワシン トンとテヘランの効果的な和解を前提とする米国・イラン関係の再構築が重要である。具体的には、米国によるイランへの安全保障の保証を前提にイランが核開 発を放棄するとの交渉である。
 米国のイランへの経済制裁の解除、イランとの外交樹立、イランの世界貿易機構への加盟、海外投資の振興などが必要となる。イランは、核開発の放棄のみな らずテロ組織への支援を辞め、人権問題などを解決する必要がある。現在、ブッシュ大統領とアフマディネジャド大統領が、このような極端なイメージチェンジ を行なうとは考えられない。
 政治的意志が働き大局的交渉戦略が実現されるまでには、相当な時間が必要である。1972年にニクソン大統領とキッシンジャー国務長官が、中国と秘密裏 に技術移転や核不拡散を含む交渉を行なった。交渉は成功したように見えるが、1992年まで中国は核不拡散条約(NPT)に加盟しなかったことからも大局 的交渉のマイナス面はある。
 第五、封じ込め建設的関与戦略(contain and engage) 膠着状態を 打開するためには、強制だけではだめで、また刺激策だけではイランの行動に決定的な影響を及ぼすことはできない。大局的交渉と比較し、封じ込め建設的関与 政策は、国際社会との協調による効果的な封じ込め政策と、経済、政治、安全保障の刺激策としての建設的関与を交錯させた交渉を進めることにある。
 イランの核問題の交渉において、4つの方法がある。
 1. イランの核開発を永久に中止させる。
 2. 厳密な監視の下で、イラン国内の一部の核濃縮を認める。
 3. イランが参加する多国間の核濃縮施設を作る。
 4. 国際的監視の下でイランへ核燃料を供給する。
 特に、IAEAの管轄で、核燃料の貯蔵銀行を作る。核燃料の平和利用は、二酸化炭素排出量を制御する意味で地球環境にプラスに作用するエネルギーであ る。厳格な国際的監視の下で核燃料の効果的な使用により、石油、天然ガスの化石燃料の依存度を低下させることが可能となる。世界第二の資産家であるウォー レン・バフェット氏は、核燃料の貯蔵銀行の構築に約50億円の寄付を行なった。米国は、この分野への支援を拡大する予定である。
 イランは石油精製施設の老朽化もあり、国内使用のガソリンの30%を輸入している。イランの石油輸出が減少傾向にあり、2015年にはゼロになるとの予測もある。その意味でも、交渉の切り札として、国際監視の下での核燃料の供給は効果的だと考えられる。
 封じ込め建設的関与政策を成功させるためには、EU,ロシア、中国並びに国際社会のWin-Winの妥協点を見出すと同時に、イランが納得する和解への 具体的なシナリオが必要となる。イランの核問題を外交的交渉で成功させることにより、核のドミノ現象を回避できると同時に新たなエネルギーの安全保障を構 築することが可能となる。イランへの核疑惑施設への攻撃を回避するためにも封じ込め建設的関与政策の実践が期待される。

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