地方税を支払っていない転勤族
30年前の2003年9月、長野県の田中康夫知事が「好きな自治体に住民税を払いたい」と長野市から約150キロ離れた同県泰阜(やすおか)村に住民票を移転した。しかし、長野市は選挙人名簿から知事を抹消せず、泰阜村との二重登録の状態になった。長野市の住民が同村選挙管理委員会に登録決定取り消しを求め提訴。審査委員会の報告を踏まえ、知事は自身の住所を泰阜村と決定した。田中知事の住民票問題として、多くのサイトに記録されている。その翌年、僕は三重県の津市に転居した際、法律に記されている14日以内の転居届が遅れたことで、「始末書を書いてくれ」と言われた。意味が分からず、「僕は三重県に納税するために転居届を出したのにどういうことなのか」と窓口で声を荒げた。係りの人は前の住居地の世田谷区に電話して「伴さんの転出日を2日遅らせて」と要請した。これで事なきを得たが、これは完全な公文書偽造だと思った。
その後、支局長仲間に住所変更をしているか聞いたが、誰一人として津市に転居届を出していなかった。法律では転居後、「14日以内に転居届を出すこと」が明記されており、違反者には「5万円以下の過料を科す」とある。三重県の県庁所在地の津市や四日市市には多くの大企業の転勤族が住んでいる。少なくとも5000人はいるだろうと考えた。地方税は所得の10%だから、三重県は一人100万円内外の地方税を取りそびれている。総額50億円。これは大きい。多くの中核都市でも同じことが起きているだろう。
ふるさと納税への対応が10月から厳格化されることになった。高知市ではそもそも力を入れていないが、ふるさと納税に力を入れるより、転勤族に正しく転入届をしてもらう方が税収増に寄与するはずだと考えている。あっという間に高知県と高知市に数十億円の地方税が納付されるだろう。
田中知事の場合、この決定取り消しを求めて長野市が提訴。最高裁で長野市住民の勝訴が確定し、知事は04年12月、両親の自宅がある同県軽井沢町に住民票を再び移転したそうだ。