9月29日午後、南国市の高知県農業技術センターで「有機・減農薬の多収穫稲作セミナー」に参加した。JAとくしま小松島南部支部の西田聖さんが十数年前から始めた挑戦の話が面白かった。というより分かりやすかった。農水省は2年前から「みどりの食料システム戦略」を策定、2050年までに国内の農地の4分の1を有機栽培にするという目標を打ち立てたが、農薬と化学肥料の販売で潤うJAで有機農業を推奨するところはまずない。西田さんの小松島だけだ。西田さんは150戸の農家に営農指導しているが、まず収量が半端でない。そして食味も格段に向上した。
 西田さんはニコニコしながら話す。有機農業への転換は難しいことではないと説く。これまでの農業の概念を覆すことから話は始まる。土壌は弱酸性ではなく、弱アルカリにする必要性を強調する。弱酸性の稲の根っこは真っ赤であるのに対して、弱アルカリは真っ白。赤くなるのは土壌の鉄分が酸化して赤くするのだそうで、水から養分をを吸収する力が大きく減退する。ペーハーを弱アルカリにすることで収量が格段に高まる。なるほど合点する。 ペーハーを弱アルカリにするためには、秋の収穫後に田んぼでの作業が不可欠。稲わらを分解させておくと、土壌が山の落葉樹の腐葉土のようになり、田植え時期にトロトロの土ができる。メタンガスの発生が抑制される効果もある。口癖は「耕すのはトラクターではない。微生物が耕すのだ」。田んぼの水持ちがよくなると、さらに雑草が生えにくくなる。肥料は鶏糞だが、その鶏糞肥料にはアミノ酸が多量に含まれており、そのアミノ酸が吸収されて多収穫と食味向上につながる。
 それから、夏場の常識とされてきた「中干し」は根っこが切れる原因となるので、一切しない。だから西田さんの田んぼにはオタマジャクシやヤゴがたくさん生息する。生物多様性だという。ミネラルを多量に吸収した稲の茎はとても固く、バキッとおれるほど。カメムシも茎から養分を吸えないくらい固い、通常、日本ではヨーロッパで使用が禁止されている「ネオニコチノイド」という農薬をまくが、西田式稲作ではまったく使用する必要がない。
 西田さんの話の後に、農水省のお役人が「みどりの食料システム戦略」の話をしたが、ほとんどマニュアルを読んでいるようで全く面白みがなかった。西田さんの話は分かりやすく植物の生理を学ばせてもらった。