ウクライナ戦争が起きて、日本円は1ドル=125円まで下がった。これまで戦争が起きると円高になったが、今回は、アメリカが当事者でないことが異なる。安倍政権で日銀総裁に抜擢された黒田氏は、インフレ率2%を達成するため、ゼロ金利を維持しながら大規模な金融緩和策をとった。市場に流通する国債を大量に買い取り、その延長上で上場株も買っている。結果的に500兆円を超える国債を保有するようになっている。その結果、円の信用度が低下、相場を円安に誘導した。民主党時代に1ドル=100円を切っていた日本円は安倍首相時代に110円近辺まで安くなった。円安によって企業の利益が増加し、株価上昇にもつながった。メディアは黒田バズーカ砲ともてはやした。肝心の物価上昇率2%は10年近くたっても達成できていないが、株価上昇が安倍人気の一端を担ったことは間違いない。

その日本円がウクライナ侵攻後、急激に円安に転じ、130円を予想するアナリストも出てきている。西側がロシアからのエネルギー輸入を縮小したため、原油価格が1バレル=100ドルを超える水準となり、多くの国々でエネルギー価格の上昇に歯止めがかからない。日本の場合は円安の進行でさらに大きな影響を受けている。

一方で、アメリカでは昨年から連銀が金融引き締めを模索し、今年から金利の引き上げが始まった。この間、日銀は金融政策を変更しない考えを何度も示しており、日米の金利差が拡大しており、その金利差がさらなる円安を誘導しているのだ。本来ならば、アメリカの金融引き締めによって日本も同様の措置を取るのが定石と思われるのに、日銀は一向に政策変更の姿勢を示していない。1985年のプラザ合意以降、日本円は相場に翻弄され続けて来た。欧米は日本の輸出競争力をそぐために円高に誘導したが、1997年のアジア通貨危機のように円安誘導によって揺さぶりをかける場面もあった。しかし、国際金融資本はかつてのように大規模な為替操作を行っていない。ということはこのところの円安は日本の経済力そのものを評価したものといえるのかもしれない。1ドル=130円を超える水準になれば、さすがの日銀もゼロ金利維持はできないだろう。そもそも1%や2%程度の金利では「高金利」といえない。だが国債発行額が1000億円を超えてしまった日本にとって1%の金利でも、10兆円の利払いが生じ、財政への負担はとてつもなく大きくなる。これからの日本はそんな経済的危機の時代に突入する。そうなるとインフレ率は2%程度ではすまなくなる。インフレが暴走する時代が到来してもおかしくないことになる。

再来年の2024年になると1万円札は渋沢栄一に切り替わるが、新しいお札が「減価」する姿だけはみたくない。