日本のEV車普及を遅らせている揮発油税と軽油税
90年代、日本の電気自動車は世界の最前線を走っていた。排気ガスに悩むカリフォルニア州で電気自動車を普及させようと考え、自動車各社に5%のゼロエミッション・カー販売を強制する法律が成立し、トヨタもホンダも電気自動車を発売した。まだ鉛電池の時代に、1回の充電で100キロ以上走る電気自動車を開発して発売した。そんな中からハイブリッド車が誕生し、環境問題に関心の高い人々から歓迎された。改造車メーカーの中には電池容量を増強して充電型のプラグイン・ハイブリッドという概念も生まれた。
そんな技術力を持った日本の自動車メーカーであったが、国内での電気自動車は普及しなかった。電気自動車に対する購入時の補助金や税金の減免措置が取られたにもかかわらず、普及が進まなかったのは、1回の充電での走行距離がガソリン車に比べて短かったことと、補助金を含めても価格がガソリン車より高かったためである。そんな中で2010年代には世界的な脱炭素のうねりが広まり、アメリカのテスラが電気自動車専業メーカーとして立ち上がり、中国でも雨後の筍のように電気自動車メーカーが誕生した。環境問題に一番敏感なヨーロッパでは意識の高い市民によるEVシフトが進んだ。
世界と比較して動きの遅いのが日本だ。90年代に電気自動車が誕生した時、考えたのは「これからは他産業による参入」だった。ソニーとかパナソニックが自動車をつくる時代が来ると考えた。ソニーが昨年になってようやく重い腰を上げ始めたが、まだ試作車段階にとどまる。
そもそも政府のエネルギー政策は原子力中心と旧態然のままである。太陽光や風力発電など自然エネルギーのマイナス面ばかりが指摘されている間に、世界では自然エネルギーへの転換が猛烈な勢いで進んでいる。
一番の元凶は原子力村と呼ばれる産官学のスクラムである。原子力村の人々はエネルギーの安全性よりも利権重視の構造が強固。民主党時代に枝野官房長官は「2030年に原子力発電を終わらせる」と発言したが、安倍政権に代わってからその政府方針は完全に反古にされている。
一番の問題は税制ではないかと考えている。揮発油税2兆円、地方揮発油税2000億円、軽油取引税9000億円。計3兆円を超える税収がある。日本を走る自動車がEV化すると政府は3兆円の税収を失うことになる。電気料金は家庭での使用を原則としているので、ガソリンのように1リットル=53円のような高い税率をかけることは不可能。自動車のエネルギー源が石油から電気に置き換わると財政に大きな負担がかかる。
民主党時代、ガソリン税にトリガー条項が導入された。ガソリンが一定価格以上に高騰した場合、租税特別措置法によって「暫時」高くなっている税率を1リットル当たり53円80銭から28円70銭へ25円10銭下げる仕組み。東日本大震災の復興財源を確保するため適用が停止されている。そんなことも分かって来た。
そろそろ日本も自動車関連の法制をEV普及を前提に改編しなければならない。自動車関連の税制は基本的にエンジンの排気量を基準に設定されている。EVはモーターが動力源だから、そもそも排気量という概念がない。現在の自動車税はどうなっているか。排気量がゼロだから、大型車でも1000cc未満の小型車の税率が適用されているのだ。馬力という概念も改めなければならない。電気だから当然、能力はKWで表示しなければならない。バイクの免許も排気量を基準に原付、中型、大型とあるが、これも変えていかなければならない。近距離用として自動車とバイクの中間のような車両も中国では相次いで普及している。将来の自動車市場のEV化を先取りした法制の大改革が求められているのである。