限界集落に22年ぶり産声 安芸市畑山
静かな山村に22年ぶりの産声―。安芸市畑山の土佐ジロー農家、小松靖一さん(53)、圭子さん(28)夫婦に昨年12月、待望の赤ちゃんが誕生した。人口58人、平均年齢72歳の限界集落に子どもが生まれるのは実に22年ぶり。住民も「地域がぱっと明るくなった」と感激している。
靖一さんは畑山で生まれ育ち、圭子さんは愛媛県宇和島市出身。圭子さんが大学時代、国の交流事業で畑山を訪れたことが縁で知り合い、2010年夏に結婚した。2人で手を取り合って肉用土佐ジローの飼育と、畑山温泉「憩の家」を運営している。
第1子が誕生したのは12月9日。元気な男の子で、「日本人らしい響きがいい」と「尚太郎」と名付けた。「いろんなことを幅広く吸収し、協調性があって、人にかわいがられる子に育ってほしい」と願いを込めた。
靖一さんは「やっぱり子育てはこの雄大な自然の中でやりたい。息子と一緒に山や川で遊べる日が楽しみ」と目尻を下げる。圭子さんいわく、靖一さんは「イクメン修行中」。ぎこちない手つきで、風呂やおむつ替えに毎日奮闘している。
地域住民も「人口が1人増えるなんて快挙」「自分のことのようにうれしい。元気が出る」と喜ぶ。
唯一の悩みは教育。畑山周辺には幼稚園や学校がない。一番近い井ノ口小学校は車でも30分以上。学校に通う年になれば、一家で山を下りる選択肢も考えざるを得ない。
「後継者に、というこだわりは持ってないけど、私たち夫婦の畑山を愛する心を伝えた上で、自分の意思で畑山に帰ってくる選択をしてくれたら幸せ」と圭子さん。
靖一さんは「畑山の未来の、いちるの望みになれば」と集落の存続に希望を託し、「尚太郎がきっかけとなって、多くの子どもたちが畑山を訪れてくれるようになればうれしい」と交流の輪が広がることを願っている。