国王に二度即位するなどということはあまり聞いたことがないはずである。日本では大化の改新のころと奈良時代に女帝が二度即位したという歴史があるが、昨年12月13日に即位したマレーシアの14代目国王、アブドル・ハリム・ムアザム・シャー(クダ州のスルタン)は36年年ぶりに王座に復帰した人物である。
 なんでそんな不思議なことがおきるのかというと、マレーシアは建国以来、王様の輪番制を取る世界的にも珍しい政治制度が続いているからである。王様の任期は5年。9人のスルタンの中から順番で即位することになっている。任期途中で亡くなると次のスルタンが即位するから45年で一巡するわけではない。
 マレーシアは11の州から構成される。ペナンとマラッカはイギリス統治時代に直轄植民地だったため、スルタンがおらず、残りの9州にスルタンが存在していた。1957年、イギリスから独立してマラヤ連邦が誕生したとき、憲法制定委員会は国王を新たに設けて国家元首とすることを決めた。そのとき、この国王輪番制が決まった。
 この国王輪番制がどういう経緯で生まれたのか、いろいろな人に聞いてきた。もちろんマレーシアの友人にも聞いたことがあるが、誰もその経緯を語れなかった。その真相が最近になってようやく分かった。
 筆者が編集に関わっている財団法人霞山会の広報誌「Think Asis」第6号に小野沢純拓大教授が「マレーシアの国王は5年任期の輪番制」というレポートを書いてくれたためである。
 それによると、そもそもヌグリ・スンビラン州では9人の首長(ルアク)から互選でスルタンを選ぶことが続いていて、ペラ州ではまさに3つの首長の間で輪番でスルタンを選んできたという経緯があった。そうした「互選」「輪番」による統治を国家レベルに高めた結果、9人のスルタンが輪番で5年ごとに国王になるというユニークな政治制度が確立してのだという。
 マラヤ連邦の初代国王はヌグリ・スンビラン州のスルタン、アブドル・ラーマンが選ばれたが、その後、12人のスルタンが国王になり、今回83歳のアブドル・ハリムが二度目の国王に復帰したということなのだ。