EUで国債格下げドミノが始まった。ギリシャの経済破綻から始まった危機はイタリアの国債格下げに飛び火し、さらにスペインに波及した。EU各国が手をこまねいている矢先にドミノはフランスにも及んだ。その結果、EU通貨が大きく売られる局面に突入している。
 最高の格付けをもらっているフランス国債の格下げによってユーロが売られるのは分かるが、フランス国債の何段階も下の格付けしかない日本国債の通貨である円が買われるというのはどうも合点がいかない。この先、日本国債の格付けが下がると円売りユーロ買いにつながるのか分からないが、市場が動く動機は絶対的価値や水準とは無縁の世界のようだ。
 欧州各国国債に続いて順番に日本債が下がり、その次に米国債が下がれば、どうなるのか。順繰りに通貨が上がったり下がったりして、結局、何も変わらない・・・なんて冗談が起きてもおかしくない。
 景気悪化による財政出動が始めにありきで、財政悪化により国債の格付けがいったん下がると、金利上昇により財政のさらなる悪化と国債格付けの下落の悪循環から抜け出せなくなる。
  市場経済というばけものは一体何なのか考え込まされる日々が続いている。日本でもそうだったが、経済危機に直面した中央銀行が必ず行うのは金融緩和であ る。金利引き下げがまずあり、その金利が金利といえないほどの低水準に達すると今度は流動性拡大である。市場にどんどんお金を流して金融システムが止まる のを防ぐ効果があるとされるのだ。
 だが、果たして流動性を拡大してお金の流通が高まるのかといえば、決してそうではない。中央銀行は銀 行にお金を流し込むのだが、銀行から先にお金は流れない。水ぶくれしたお金は銀行を通じてさらに市場に逆流するのだ。その悪循環が続くとお金は中央銀行と 財政と銀行の間でぐるぐる廻るにすぎない。
 国家の財政はどんどん逼迫し、通貨価値の下落というスパイラルに陥る。自分で吐き出した通貨によって国家経済が破綻への道を進むことになる。
  ここ20年、世界で起きているのは国家の貧困化と民間の富豪の肥大化である。富が国家から世界の一部の富豪と企業に集っている。本来、国家は民から税金を 徴収して政府を動かす機能を持っているはずだから、民が富めば国庫も豊かになるのが自然なのにまったく逆のことがどの国でも起きている。民間の富豪たちの 富は半端でない。小さな国家を運営できるほどの富豪がどんどん生まれるカラクリはどう説明できるのだろうか。
 日本経済は1400兆円の 民間貯蓄があるといわれている。一方で富を生み出すはずのGDPは20年前か500兆円でしかない。仮に1400兆円を普通の金利である5%で回さなけれ ばならないとすると、金利だけで70兆円が必要になる。500兆円の経済活動から70兆円を生み出すなどほとんど不可能である。
 実体経 済に較べて日本は貯蓄が多すぎるということになる。住宅購入の頭金や老後の蓄えとしてなけなしのお金を貯蓄してきた結果、日本全体からみるととんでもない 金額に達していることは事実で、実はこのお金が暴走するマネーの資金源になったいるのだとするとやるせないことになる。
 筆者が経済記者になりたてのころ、長期金利は最大でも10年だった。銀行も10年以上のお金はめったなことでは貸してくれなかった。それが住宅融資は35年 が当たり前となっている。22歳から60歳まで働いたって38年しか給料をもらえないのに、35年ローンはないだろうとずっと考えてきた。
 政府はもっととんでもないことをやっている。日本の高速道路などは60年で建設資金を償還するなどという発想なのだ。国の借金が膨れ上がるのも無理はない。
 国債格付けドミノはどこかで断ち切らなければならない。