作家というかジャーナリストの莫邦富がDiamondonlineに「『蛇頭』の絶版に見る中国労働力市場の変化~内陸部にまで広がる「三非」問題」と題した面白い論考を書いている。
 http://diamond.jp/articles/-/9106
 『蛇頭』という言葉は莫さんが「発明」したことなのかは知らないが、1980年代、改革開放を標榜する中国からおびただしい数の中国人が日欧米に流れ、不法入国と不法就労を繰り返し問題となった。蛇頭はそうした密航者たちを海外に運ぶネットワークを牛耳っていた人たちのことである。
 中国経済が巨大化し、蛇頭という言葉は聞かれなくなったが、今度はその中国に周辺国だけでなくアフリカなどから多くの不法入国者や不法就労者たちがやってきて社会問題化しているというのである。莫さんによれば、「三非」は、外国人の非合法入国(不法入国)、非合法滞在(不法滞在)、非合法就職(不法就労)のことを言うのだそうだ。
 莫さんは、論考の中で、湖南省衡陽市でこのほど行われた一斉手入れについて紹介している。
 「日本では無名と言ってもいい内陸部の地方都市で、この7月に外国人の不法滞在、不法就労の摘発が行われた。ここ10年で同省最大規模の摘発と表現されるこの摘発作戦で、衡陽市のある照明器具会社で働く23名のベトナム人(うち女性が4名)が検挙され、強制送還された。例の照明器具会社は罰金の処分を受けた」というのだ。
 なるほどベトナムから「賃金のより高い中国」に不法入国する人が絶えないのか。経済の急拡大、急成長によって中国が労働力輸出の国から輸入の国に転換したと判断するのはまだ早いだろう。しかし、少なくとも流出だけの国ではなくなったということは大きな変化と見なければならない。
 振り返ってみれば、中国の改革開放政策が始まって今年で32年にもなる。当時、政治や経済を担っていた人たちはほとんどがリタイヤしているだけの年月が経っている。筆者自身が1977年に大学を卒業して共同通信に入り、来年定年を迎えようとしているのだから、それこそ自分の会社人生は中国の市場経済の歩みとほぼ重なるといっていい。
 中国経済が労働力という面で転機を迎えたとしても不思議でない。(伴 武澄)