飛鳥路は折にふれて訪ねることが多い。春はレンゲソウが咲くころのあぜ道がいいし、晩秋、甘樫丘からの眺める二上山に沈む夕日はもっといい。
 飛鳥を初めて訪ねたのは20歳のときだった。奈良大和路とかいう周遊券があって、当時の国鉄だけでなく近鉄も利用できたからありがたかった。もちろんハイウエイバスも乗れた。奈良を訪ねるときは、宿泊費を浮かせるためなるべく夜、東京を出発して明け方に京都に到着するハイウエイバスを利用した。
 初めての飛鳥旅行には岩波新書の『奈良』を持って行った。奈良の歴史を学べるだけでなく”観光”のための地図までついていた。
 飛鳥を満喫した後、談山神社を訪ねた。桜井の駅からずっと歩いた。途中に聖林寺があって立ち寄った。十一面観音像があるとは知らなかったが、本堂わきの特別拝観室にあった観音様のなまめかしさに驚いた。驚いたというより、なぜ昔の人たちは観音様のような仏像をつくったのか興味がわいた。
 就職後の初めての勤務地は大津だった。滋賀県の湖北で日本で最も優美な観音様と対面したのはその時だった。渡岸寺の観音様である。その時まで、聖林寺の観音様が自分にとって最も美しい仏像だったのである。(伴 武澄)