今から7年前のゴールデン・ウィークのことです。五月晴れの昼下がり、横浜の郊外のあるコンビニに若い作業員風のお客さんがやって来ました。
「ディズニーランドのチケットを2枚欲しいんだけど。明日行きたいので・・」
応対したパートさんは気を利かせ神奈川県の共済の割引チケットを手渡しました。問題が起きたのは暫く経ってからのことです。パートさんは何気なく、先ほどのお客さんの「明日行きたいので・・」の言葉に引っ掛りました。
「ひょっとしてあのチケットは明日大丈夫?」
 急に不安になってきました。慌てて確かめてみるとやはり不安は的中していました。割引チケットはゴールデン・ウィーク中は使用不可だったのです。
「大変、明日使えないチケットを販売してしまった!」
 お客さんに連絡を取ろうにも連絡先が分かりません。

 物語はそこからスタートします。
 パートさんは取るも取り敢えず店長さんに電話し、帰宅していた店長さんが急の一報で店に舞い戻ります。若い店長は頭を抱えました。
「まずいなぁ、2枚でしょ。デートに決まってるじゃん。折角のデートが台無しになってしまう。財布に持ち合わせが無ければアウトだし、チケットに記載の有効日に気づいてくれないかなぁ?」
 でも店に連絡が無いところをみると、気づいてないに違いない。店長はコンビニの本部に相談しました。答えはにべもないものでした。
「仕方ないですねぇ。こういう件はクレームが来てから処理するしか・・・」
 若い店長さんはこの”処理”という2文字に俄然、闘争心が湧いたといいます。
 緊急事態にパートさん、アルバイトさん達の有志が集まり出しました。古株のバイトさん、ディズニーランドフリークのパートさん。みんなどうすれば問題解決が得られるか?必死になって知恵を絞りました。でも名案が出るはずもありません。集まった人たちは、そのお客さまの顔すら知らないのですから。
でも何とかならないか?若い店長を中心に意気に燃える有志たち。
「解決の秘策がないなら、ディズニーランドに行ってみようよ!」
 結論が出るまでにさほど時間は掛かりませんでした。
 行ってみると決めた後の、それからの皆の対応は恐ろしく迅速でした。
「駐車場の開放は午前2時です。早朝の8時の開門には5~6万人は来ますよ。見つけるのは無理でしょう。ゲートの係員さんに頼んで無効チケットを差し出す人を教えて貰いましょう」
 フリークのパートさんが言いました。
「取り敢えず行く人はみな自分の携帯で防犯カメラのお客さまを写メールして!」
 その時にはもうクレームを防ぐことより、明日のデートがどうか上手く行くように、というような思いで一同がいたそうです。

 午前1時集合、調達したワンボックスカーに6人が乗り込んで目指すは浦安の東京ディズニーランド。
「どうなるかは別問題。イチかバチか、それで駄目なら仕方がない」
 午前2時前に到着。作戦通り、頼みの綱はディズニーランドのゲート係員でした。一部始終を話して交渉しました。
「ゲートで撥ねられたお客さまを教えてもらえないだろうか?」と交渉しましたが、
「そういうサービスは出来ない」
 埒があかないので粘りに粘ってようやく責任者には会えたものの、回答はつれないものでした。
「私の最終判断としても協力は出来かねる」
 あの伝説のサービスを誇るTDLがそれはないんじゃないの?・・と悔しさで一杯でした。でもそうも言っていられません。残された最後の手段は、手分けして入場者を一人ひとりゲートでチェックすることでした。気の遠くなるような巨大なゲートを見守るのはたったの6人。頼りは各自の携帯のおぼろげな顔写真のみでした。
 それから8時間余りが経ち、みなが方々に散って捜していた10時半、パートさんの一人が店長の処へ駆け寄ってきました。
「写真に似ている人がいるんですけど・・・」
 みんな色めき立ちました。
 遂に捜し当てたのでした。奇跡でした。
 店長さんがことの次第を説明し、お詫びとともに用意していた正しい入場券を渡した時、一瞬お客さんは何が起きたか訳が分からない様子でした。ただ傍らにいたデート相手の女性がこのストーリーを飲み込み、感激にウルウルきてしまったのが印象的でした。何か大きな事をひとつやり遂げた達成感、というか清々しさを6人のメンバーが一様に噛みしめたのは言うまでもありません。何とも爽快な一体感がみなを駆け抜けました。
 これでこの小さな物語はお終いです。