神戸プロジェクトのシンポジウムが近づき、遅まきながらムハマド・ユヌス氏の著書2冊を読んだ。10年ほどまえの『ムハマド・ユヌス』と昨年出版されたその続編ともいえる『貧困のない世界を創る』。ともに猪熊弘子が翻訳し、早川書房が出版した。
 読み終えてまさに90年前の賀川豊彦が眼前に復活した。バングラデシュが独立して、留学先のアメリカから帰国したユヌス氏は母校のチッタゴン大学経済学部長に迎えられたが、近隣の貧しい農村の実態を放置できずに象牙の塔を抜け出した。神戸の神学校から新川スラムに移り住んだ青年、賀川豊彦は肺病を悩みながら残り少ない人生をならば貧しい人々とともに暮らそうと決断した。動機は違うが、「救貧」があり「防貧」が続く。
 グラミン銀行が行うマイクロクレジットは賀川が関東大震災後に本所に設立した中ノ郷質庫信用組合の発想と生き写しなのだ。貧しい人に金を貸すことが無謀だと考えられていた時代に、鍋釜を質にとれば、夕方必ず必要になるから借金は必ず返済されるとの信念通り、中ノ郷は貧しい人々のかけがえのないよりどころとなった。グラミンもまた同じ発想で返済率97%を誇る銀行として発展したいるのだ。(伴 武澄)