お金の種類(Bank Note) お金は物々交換の代替品。昔は貝殻だったり、穀物だったり、家畜だったりしたのが、金や銀、銅に代わり硬貨が誕生し、今に到る。兌換紙幣は17世紀にスコットランドに生まれた。日本では同じ時期に伊勢神宮の門前町で山田羽書(はがき)が発行された。ドル基軸となった現在、兌換紙幣はなくなった。現在、世界には① 銀行券② 中央銀行券③ 政府通貨④ 地域通貨―がある。

信用(Credit) 硬貨は金や銀の重さと含有量が鋳造元の信用の基礎となった。兌換券は発行元が保有する金や銀の保有高が信用の基礎だった。信用がなくなれば、ただの紙切れにしかすぎない。戦争時に占領地で発行される軍票はその最たるものである。
 銀行制度が発達すると銀行そのものが「通貨」を生みだす機能を果たすようになる、銀行口座の中でお金が移動するかぎり、銀行による信用創造が可能になった。コンピューター管理の時代に入ると流通する紙幣の何倍もの「信用通貨」が金融機関の中で動かすことも可能になった。アメリカで誕生したクレジットカードはまさに「信用通貨」である。20世紀後半の世界経済はまさに「信用通貨」が生みだしたものといっていい。
 広義での通貨は中央銀行が発行する紙幣だけではないのだ。日本のプリペイドカードはまさしくお金であり、ポイントカードもまた通貨の一形態を担うものと考えられる。
 金融機関に対する信用が失われた結果が、昨年来の世界金融危機なのである。

担保(Mortgage) 兌換紙幣は金や銀が担保だった。中央銀行が紙幣を発行する場合も、市中銀行から担保を求める、銀行が保有する国債や社債、最近ではコマーシャル・ペーパーも担保となる。中央銀行という「信用」の上に「担保」も取って発行されるのが国の紙幣である。政府紙幣には担保はない。500円玉は中のニッケルなどの金属的価値しかない。逆に言えば信用さえあれば、「通貨」はなんぼでも発行できるということでもある。

地域通貨(Local currency) 日本で最大の疑似通貨はたぶん、NTTが発行してきたテレフォンカード。次いで百貨店の商品券である。いまではカード会社や家電量販店のポイントカードも兆単位になっているはずだ。ポイントカードの多くは「減価」する特徴がある。一定期間で消滅するのだ。・・・・。

 欧州が注目し始めた「減価」するゲゼルマネー  2009年02月04日
 10年前のアジア通貨危機のころ、ミヒャエル・エンデを追悼した『エンデの遺言』を読んで「減価するマネー」を知った。1900年代の初頭にドイツのシルビオ・ゲゼルが提唱したこのお金は世界大恐慌の直後、ドイツやオーストリアの一部で現実に導入され、流通が速いお金として注目された。
 ドイツ南東部の炭坑町、シュヴァーネンキルヘンという人口500人の町では小鉱山主のヘベッカーが「ヴェーラ」という自由通貨を発行して町を活性化した。オーストリアのチロル地方のヴェルグルでは鉄道工夫のウンターグッゲンベルバーが町長に選出されると、「労働証明書」という「通貨」を発行し、大規模な公共事業を起こして、この新紙幣で賃金を支払った。町の商店も新紙幣を歓迎した。
 この紙幣の特徴はやはり「減価」するというものだった。毎月1%ずつ価値が下がる仕組みで、紙幣に12個のスタンプを押す升目があって、町が売り出すスタンプを貼らないと額面を維持できない。このスタンプ代は一種の税金であるが、住民はなるべくスタンプ代を支払う必要がないようにできるだけ早目に使おうとするから紙幣は驚異的なスピードで循環した。失業の町は瞬く間に活況を呈した。
 1932年はゲゼル・マネーが初めて世界的に注目を集めるようになった年である。欧米の経済学者やメディアがこぞってオーストリアの小さな村を訪れ、「減価」するマネーの威力を世界に伝えたという。残念なことに「労働証明書」はまもなくオーストリア通貨当局から疑似通貨として発行を禁止された。もちろんヴェルグルは元の失業者の町に戻ってしまった。
経済の破綻は失業者の増価を招く。失業者の急増によって、革命が芽生えたり、全体主義の台頭を許したりしたことは歴史の教訓である。
 現在、われわれが使っているお金は「増価」する通貨である。本来、通貨は物々交換の代わりに登場したもののはずだったが、利益の蓄積によって金貸し業が勃興し、「金利」の概念を生む。マネー経済は「利」が「利」を生む経済である。何も生産しなくとも「富」が「富」を生む仕組みである。金持ちがますます金持ちになる仕組みでもある。
 マネー経済が破綻した昨今、欧米のメディアは再びゲゼルの「減価するマネー」に注目し始めている。ゲゼルマネーやドイツで起きている「キームガウアー」に関する報道が出始めているのだ。

「キームガウアー」ってなあに August 8, 2006 美濃口坦
 話しているうちに、反対したり賛成したりするだけで、本当は現実べったりの自分が少し恥ずかしくなる。忙しいのに私の相手をしてくれているのは、今までドイツで一番成功した地域通貨の「キームガウアー」を立ち上げたクリスティアン・ゲレーリさんである(写真下)。
 地域通貨とはなにか。この説明はややこしくなりそうなのでゲレーリさんがしたことを順番通りに書く。今から4年前の2002年に彼はプリーンのシュタイナー学校に「経済」と「情報工学」の課目の先生として就職し、授業で貨幣をテーマにとりあげた。「お金がなんのためにあるのか」からはじまって、利子があるために資本として投下されたお金を殖やす経済成長が不可避になることや、またその弊害を防止するために別のタイプの貨幣が考えられることなどを生徒たちに議論させたという。
 そのうちに熱心な生徒(写真下)が会員の間だけで通用する通貨をつくろうといいだす。
このシュタイナー学校があるプリーンは、ミュンヘンからザルツブルクへ向かう途中の「キームゼー」という大きな湖の畔の町で、この地域は「キームガウ」とよばれる。こうして2003年にはじまった学校の課外プロジェクトの通貨が「キームガウアー」になったのもこの地域名に由来する。
 上の写真は1、2、5、10、20、30キームガウアーのお札と会員カードをしめす。1キームガウアー=1ユーロで、会員は交換所で100ユーロを渡すと100キームガウアーをもらい、会員になった業者から物を買ったりサービスの提供を受けたりするとその代金をキームガウアーで支払う。
 過去3年間で購買者会員が1000人に、業者会員が500人に増え、現在7万キームガウアー(邦貨で約1030万円)が流通し、2006年は財とサービスの売上げの総額が140万キームガウアー(約2億600万円)に達すると予想されている。こうしてプロジェクトは学校の放課後活動の枠を超えて、ゲレーリさんも今では教師を辞めて通貨制度運営に専念している。
 はじめは業者会員も自然食品店とか本屋さんだったのが、現在では幅がひろがり、食料品や雑貨など日常に必要なものはだいたい購入できるだけでなく、キームガウアーを受けとる弁護士、電力会社まで出現している。
 この通貨の厄介なのは、ユーロにもどそうとすると5%失う点にある。ということは100キームガウアーをもっていくと95ユーロしかもらえないことになる。これが5%の上納で、その2%が通貨制度の運営に、3%が幼稚園、スポーツクラブ、音楽教室などの地域の非営利事業団体(NPO)に寄付される。
 キームガウアーがひろまった大きな要因は、人々が自分と関係のある事業団体を援助したいと思い、そのような団体のほうも寄付が欲しいために関係者にキームガウアーの会員になることを勧めるからである。会員登録申請用紙には支援する非営利事業団体名を記入できる。このような団体から寄付を求められて困る人は少なくないので、どうせ必要なパンやお肉や野菜を買うことで寄付できるのなら、これはけっこうな方式ともいえる。
 ところが、会員業者がキームガウアーをユーロにもどさなくなったら上納も止まり、この通貨の運営も非営利団体事業支援も不可能になる。そうならないのは、本屋を例にとれば、卸や出版社には仕入れた書籍の代金をユーロで払わなければいけないからである。ということは、この会員制地域通貨はユーロが機能していることから得していることになり、これは寄生関係である。
 でもゲレーリさんたちのこの現実主義によって、地域外に出て行くお金がへり、その分だけ経済の活性化に役立っている以上、地域通貨はその目的を達していることになる。ユーロ導入で各国通貨の障壁がなくなり、グローバル化で資本は一番殖える場所に流れるようになった。この結果今度は国家でなく、以前より小さな単位の地域でとばりをつくり、その流れをわずかでも阻止しようとしているのは、健気な振る舞いである。
 キームガウアーのもう一つの重要な特徴は「賞味期限」をもつ通貨である。というのは、この貨幣は発行後3ヶ月経過するたびに価値の2パーセント分に相当する延長スタンプを購入して貼り付けないと無効になるからだ。この措置のお陰で、昔から日本でも「金は天下のまわりもの」といわれるが、この会員制通貨はユーロの二倍のスピードでまわる。これも、もちろん地域経済活性化に寄与することになる。
 この措置がとられているのは、キームガウアーをはじめたゲレーリさんたちがシルビオ・ゲゼル(1862年-1930年)の「自由貨幣」論の信奉者だからである。この人の理論よると、貨幣が蓄財でなく交換のために手段として役立つことこそ、より自然に機能する経済秩序の実現につながることになり、だから利子の存在を否定する。
 ここで冒頭の私の感想にもどる。私はゲレーリさんと話しているうちに少し自己嫌悪を覚えた。というのは、私は戦争ばかりあった20世紀の人間であるためか、右か左かとか、革命か反革命かとかいったことばかりを問題にして、けっきょく自分が今まで身近な現実を変えようともしないで、旗振りばかりしてきたような気がしてきたからである。

Depreciating currencies The money-go-round
Jan 22nd 2009 | MUNICH From The Economist print edition
Will old-fashioned scrip make a comeback?

IN 1933, in the depths of the Depression, Irving Fisher, America’s most prominent economist, wrote a pamphlet on “Stamp Scrip”. This was a type of alternative currency popular in America and elsewhere at the time that was periodically taxed with a stamp so that it would be spent, not hoarded.
Based on the theories of Silvio Gesell, a German “quasi-economist”, one such currency, the wara, was used to revitalise Schwanenkirchen, a Bavarian coalmining village, in 1931. “No one who received wara wished to hold [them], the workers, store-keepers, wholesalers and manufacturers all strove to get rid of them as quickly as possible, for any person who held [them] was obliged to pay the tax. So wara kept on circulating, a large part of [them] returning to the coal mine, where [they] provided work, profits and better conditions for the entire community,” Fisher wrote approvingly.
“The miracle of Schwanenkirchen” is a historical footnote, but as deflation fears increase, and interest rates fall close to zero, the allure of such currencies may resurface. Though there are alternative currencies everywhere, Germany is particularly fond of Gesellian depreciating varieties. Bavaria still boasts the biggest in the country, the chiemgauer.
Named after the region where it originated in 2003, the chiemgauer can be used alongside the euro in more than 600 shops and firms in the area. About 300,000 of them are said to be in circulation. In the town of Traunstein, the chiemgauer can be spent on newspapers and food and some people are paid in it.
Spent it must be, because it loses value every quarter. The notes have an expiry date after which they need to be renewed with a sticker costing 2% of their value. The quicker money is spent, the faster, in macroeconomic terms, its velocity. Gesell argued that a higher velocity of money helps combat deflation.
Some of Gesell’s theories were rejected by Fisher. But generations later, zero interest rates in slumping Japan led to renewed debate about a temporary tax on money to encourage spending.
Gerhard Rosl, professor of economics at the University of Applied Sciences in Regensburg, who wrote on alternative currencies in 2006 for the Bundesbank, says the overall stimulus from such schemes in times of deflation may be short-lived?because, though the velocity of money increases, its supply tends to shrink. For now, the amounts in circulation are minuscule. Most are a gesture of defiance against globalisation by encouraging local commerce rather than a rigorous economic experiment. But there may be more converts if monetary policy eventually runs out of road.