誰が考えたのか。いつのまにか「タスポ」カードの導入が決まった。自動販売機でタバコを買うのに特別のカードがないと買えないことになるのだ。余計なお世 話である。青少年の喫煙防止が理由なのだが、タバコを買うのにどうして顔写真が必要になるのかも分からない。タスポカードの普及が遅れると免許証で代替可 能な自販機も登場した。
 財務省には14年前、酒類販売でも同じことをしようとした前科がある。「未成年飲酒防止を名目に酒の安売り阻止を図ろうとした国税庁」でそのむかし報告した。
 そもそも日本では自販機が多すぎる。最近までニューヨークにいた編集仲間に言わせると、アメリカには自販機というものが少ないのだそうだ。野外に現金が詰め込まれた大きな箱があれば、盗難や破壊の恐れがあるからだという。
 日本はよっぽど治安がいいのだろうが、アメリカでは子どもの分かる相手には絶対にタバコや酒を売ってくれない。何十年も前から販売店側にもそれなりにモラルが確立している。日本でもそれなりにモラルができてきて、今ごろ子どもにタバコや酒を売る店は少なくなってきている。
 タスポを発行するのは日本たばこ協会という民間団体である。一民間団体がタバコ喫煙者の個人情報を集められること自体がおかしい。それを許しているのは監督官庁の財務省である。
 このところ役人のどうしようもなさが目立つ。2年前、特定マークのついていない中古家電製品の販売が突然”禁止”されたことがある。あまりのばかばかし さに1年後には「制度」が廃止となった。いわゆる「メタボ検診」は要らぬお世話だし、自転車の三人乗り禁止なんてのは情けないとしかいいようがない。
 筆者は、することがなくなった霞ヶ関の役人がどうせ寝不足で考えたに違いないと考えている。
 タスポの普及が遅れて、すでに制度を先行導入しているいくつかの自治体では自販機の売り上げは減少してコンビニの売り上げが急増しているのだそうだ。 ローソンは「3月に先行運用した鹿児島県、宮崎県では六割ほど増えた」という。自販機の改造費だってけっこうなものだ。タスポ導入を期にタバコ屋を廃業す る動きも出ている。石川県ではこの6年間に25%も廃業したのだという。【石川県で消えゆく「町のたばこ屋さん」 北國新聞】
 筆者自身、タスポをつくろうとな思っていない。余計なお世話だと思っている。家の真ん前にローソンがあるし、通勤途上にキオスクのたぐいがいくらでもある。それでなくとも財布の中は磁気カードだらけである。タバコぐらい対面販売で買おうと思っている。