2008年05月06日(火)Nakano Associates 中野 有
  東西の冷戦は、社会主義が破れ、資本主義が勝利した。しかし、時を経て、今や勝利したはずのアメリカが、イラク戦争で国威を低下させ、サブプライムローン を発端に世界の金融市場を混乱に陥らせている。一方、エネルギー資源の恩恵を受けるロシア、世界の工場を演じる中国、ハイテクの潜在を伝播するインドなど の勢力が拡張し、世界の勢力図が大きく変動している。冷戦終焉からわずか20年近くでこのような社会主義の下克上を誰が予測したであろうか。今後、世界の 潮流は、如何なる方向に向かうのであろうか。
 21世紀の理想的な経済・社会システムは、資本主義でも社会主義でもない第三の道、すなわち資本主義と社会主義の優れたシステムが統合された形態だと考 えられる。そこで今から半世紀近く前に、資本主義と社会主義の限界を予測した人物にクローズアップしてみたい。
 資本主義のプリンシプルと社会主義的インターナショナルの思想キューバミサイル危機を導火線とする核戦争への一発即発の時期、ケネディー大統領とキュー バ革命の英雄であるゲバラ工業相の思想と行動を読み解くと興味深い世相が蘇ってくる。
 ケネディーは純粋な資本主義を遂行したというよりは、途上国の経済開発支援を目的に米国の若者を途上国に派遣する平和部隊を創設し、また南北問題の解決 のために国際開発銀行の設立に関わった。ケネディーの政策には共産主義封じ込めという視点があったが、明らかに資本主義の遊び、換言すると資本主義のプリ ンシプルを貫く社会主義的なインターナショナルな思想があった。
 アルゼンチン生まれのゲバラは、医学部の学生として南米を旅し庶民の暮らしに接し資本主義の影と社会主義の光を学ぶのである。まるで、ケネディーの平和 部隊を連想させる。そして、キューバにてカストロと出会い、キューバ革命に貢献し、キューバ国立銀行総裁や工業大臣の経験を経て、次第にソビエトの社会主 義体制に疑問を抱くのである。ソビエトは、キューバを農業中心のソビエトの属国とみなしていた。それに反発するゲバラは、キューバ独自の工業開発の技術を 通じ国力を強化する経済戦略を提唱した。

 運命的な役割を演じた二人
 ゲバラがソビエトに疑念を抱いたのは米国の国益につながった。また、ケネディーは、南米の社会主義勢力を抑止するために巨額な経済支援を行った。このケネディーの行為は、イデオロギーの点で相違はあっても、ゲバラが提唱する工業開発や技術移転に貢献したのである。
 純粋な資本主義や軍事ばかりに重点をおかず、経済協力や国際主義を標榜したケネディーと、ソビエトの社会主義に反発し第三世界の工業発展と国際主義を探求したゲバラの行動は、21世紀の今日に求められる資本主義と社会主義のハイブリッドであると考えられる。
 ワシントンの書店の伝記コーナーの棚を最も賑わしているのがケネディーとゲバラである。ケネディーは当然としても驚くほどにゲバラ人気が起こっている。 ゲバラは、大臣の地位でありながら日曜日は、労働の尊い汗を流した。また、来日した際には、秘密裏に夜行で原爆の悲惨さを視るために広島を訪れている。こんな感性にあふれるリーダーに今日巡り合うことができるだろうか。
 ケネディーは暗殺の半年ぐらい前からキューバとの融和政策と核実験の禁止を訴えた。ケネディー暗殺の真相に関わるファイルは、30年後に公開される予定 だが、CIAの関与がちらついている。ゲバラはゲリラ活動の最中にボリビアでCIAの関与で殺された。ケネディーとゲバラ、表層的なデオロギーは違って も相互補完的に運命的な役割を演じた二人は、21世紀の今日のポスト冷戦の第三の道を予言していたのでないだろうか。

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