隣の編集人がディスプレイを見ながら突然「チーフ、ヨイトマケってどういう意味か知っていますっか」と大阪弁でつぶやいた。本人は何をしていたか というと、勤務時間中にユーチューブを検索中で、僕が目をやると、やがて中村美律子 が歌う「ヨイトマケの唄」の熱唱が聞こえてきた。美輪明宏のデビュー曲は知っていたが、他の人が歌う「ヨイトマケ」を聞くのは初めてだった。中村美律子の「ヨイトマケ」もなかなか心にしみる。
 大阪弁の独り言は続く。「えー歌でんなー」を繰り返し、やがて歌詞を口ずさみ始めた。
「おぅ、土方って表現は新聞では使えないんだよな」
「ハイ、放送禁止用語です」
「えー歌でしょ」
「そうだな」と生返事をして、僕はタバコ部屋にしけこんだ。
 一服して戻るとディスプレイではまだ中村美律子が同じ歌を歌っていた。とにかく「ヨイトマケ」は長いのだ。
大阪弁の編集人は「ヨイトマケ」に酔いしれていて、「ヨイトマケ」の意味については何も言わなくなっていた。
 一夜明けて、大阪弁の編集人はまだ「ヨイトマケ」にこだわっていた。
「どうでもいいことですけど、ヨイトマケの意味が分かりました」
「建設現場での掛け声なんです。家を建てるときにぶっとい柱みたいなもんを滑車に吊り下げて土を固めるのみたことあるでしょ。あれをやるときに土方たちがうたうんです」
「一種の木やり歌やな」
「そうでんがな。ヨイトマケはしっかり巻けちゅうことでしょ。その掛け声が作業名になり、さらにその作業をする人をもヨイトマケと呼ぶようになったんです。だからヨイトマケは土方っちゅう意味です」
 それがどうしたと言われては元も子もないが、「なぜだ」を追究する姿勢が記者には欠かせない。何でも自明の理として受け入れるのならば記者は要らない。 47NEWS編集部では日々、こんな会話が交わされている。言葉の意味を追究する大阪弁の編集者のもうひとつの姿は「大学院生」。このほどめでたく「博士 課程進学」が決まった。47NEWSの知的レベルは侮れないっちゅうことだ。 (紫竹庵人)