フロリダで見てきた米大統領選の現実
執筆者:堀田 佳男【ワシントン在住ジャーナリスト】
「ブッシュが再選されなかったら、堀田さんは丸坊主ですね」
昨年からブッシュが勝つといい切っているので、はずれた時は責任をとって「ボウズ頭になるしかない」というのが日本の知人の意見で、それにウンと頷いた。拙著『大統領のつくりかた』もブッシュ再選を前提として書いた。だが、心情的にはブッシュが敗れることを望んでいる。
大手新聞社に勤務する友人は、「社内の記者が政局をはずしたら更迭もありうる」という。どうりで組織の記者は誰も勝者を予想しないはずである。選挙予想が当たらなくとも11月2日夜になれば結果は判明するので、いまはバタバタとさわがず両陣営の最後の追いこみを眺めたい。
10月14日からフロリダ州パームビーチに飛んだ。ここは4年前、バタフライ方式の投票用紙が問題となり、最後までもめにもめた郡である。今年はタッチスクリーン式に替わったため、前回のような混乱は避けられそうだ。同郡の選挙管理委員会に足をはこんで、その機会をみてきた。利点は有権者がスクリーンを触るだけで投票できて集計が簡単なことだが、欠点は前回同様、混迷を極めたときに票が「紙上」に残っていないため、再集計が困難なことだ。今年はフロリダ州全67郡のうち15郡がタッチスクリーン方式をつかう。
選挙のツボは両陣営ともにプロが掌握している。どういった活動をすれば得票につながるかは、彼らの生命線とでも言えるべき領域で、ワシントンの選対本部だけでなくフロリダの地方選対でも確実に要点を熟知している。大局的な戦略も重要だが、「毛細血管」とでもいえる地方の運動員にどれほど「勝利」の意識が漲(みなぎ)っているかで、有権者獲得数はちがってくる。
パームビーチ郡のドブ板選挙のようすは25日売りの『アエラ』誌にくわしく書いたが、アメリカでは日本で禁止されている戸別訪問(公職選挙法第138条)が認められているので、「ドア・ツー・ドア」の攻勢が両陣営ともみごとである。パームビーチのケリー選対本部はほぼ24時間オープンし、同郡の民主党有権者をひとりも逃さないほどのキャンペーンを繰りひろげている。
ケリー選対本部の広報官、ローリー・マモークスは大きな瞳をみひらいて快活にいう。
「戸別訪問はキャンバシングといいます。徹底的という言葉をさらに徹底させるかたちで民家を訪れています。この郡はかならず民主党がとりかえします。このオフィスだけで、ボランディアは毎日150人ほどきてくれます」
キャンバシングはなにも選挙終盤だから行われるわけではない。予備選の激戦州でも、年頭からかなり過激にボランティアの運動員がドアをノックしてまわった。彼らの手元には全米の有権者リストがあり、道路1本1本をターゲットにするローラー作戦が繰りかえされている。
ただ、ニューヨーク、カリフォルニア、イリノイといったケリーの「当確州」では今さらカネをかけてキャンバシングはあまり行われない。スイングステートに絞られる。それは夏の党大会以後、選挙が公営選挙になったため、無制限といえるほどのカネを使えないからだ。政府から両陣営に支給された額は7500万ドル。
その中でもっとも多く使途されるのはTV広告である。パームビーチのホテルで取材が終わって大リーグのプレイオフ試合を観ていると、コマーシャルはすべてケリーかブッシュの広告といえるほど多数のネガティブ・キェンペーン広告が現れた。口について出る言葉は過激、激昂、激越、、、。
4年前、ゴアとブッシュはそれぞれ12万本以上のTV広告を打った。その8割はネガティブ・キャンペーンである。今年は間違いなくそれをうわまわる。内容は「ちょっとおかしいだろう」といえるくらいに攻撃的である。相手のあげあし取りと徹底した批判。それはすべてをネガティブにすることで、真実を幻想のなかに隠すような行為に思えてならない。だが、過去の数字をみると、批判広告を打ち返さないと支持率は確実に下降する。敵陣がやっている以上、こちらもやらないと食われて終焉、である。
こうした勝つことだけにこだわる姿をみるかぎり、ケリー・ブッシュのどちらがイラクの国情を真に憂いて建国への手をかそうとしているかと問うたとき、私には両者ともに「NO」という答えしか見えてこない。選挙終盤、フロリダで痛嘆を味わった。
堀田さんにメールは E-mail:hotta@yoshiohotta.com
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