執筆者:成田 好三【萬版報通信員】

プロ野球の公式戦(ペナントレース)は、厳密に言えば2つの目的がある。1つは、セ・パ両リーグの優勝球団を決める戦いであり、もう1つは、プロ野球日本一決定戦である日本シリーズに出場する球団を決めるためである。

1つめの目的だけなら、公式戦の期間に制限はいらない。極端なことを言えば、年明けまで公式戦を続けても構わない。しかし、2つめの目的のためには、期間を制限しなければならない。少なくとも、日本シリーズ開幕前には、公式戦を終わらせる必要がある。

こんな自明のことが、プロ野球では守られていない。中日と西武の対決となった今季の日本シリーズは、10月16日に第1戦が行われた。ところが、この日はもう1つの試合が組み込まれていた。

セ・リーグ公式戦の最終試合、横浜―ヤクルト戦(横浜主催試合)である。これこそファンを無視した試合日程である。

セ・リーグで中日が優勝を決めたのは10月1日。日本シリーズ開幕日までは14日間も期間があった。中日が優勝した1日終了時点で、最も試合数が少なかった横浜は10試合を残していた。

優勝が決まった後の試合は消化試合である。横浜は、優勝を争うという公式戦本来の目的を失った試合を、調整日や移動日に日程を追加することもなく、ダブルヘッダーを組み込むこともなく、だらだらと消化してきた。野球は1球団ではできないから、他球団も同様である。

無意味な消化試合を続けたあげく、日本シリーズと日程を重ねてしまうやり方は、ファンを冒涜する行為である。そればかりか、公式戦終了後、プレーオフの第1ステージ、第2ステージで日本ハム、ダイエーとの熾烈な戦いを勝ち抜いてきた、パ・リーグの西武に対しても失礼な行為である。

日本シリーズとほぼ同じ時期に開催されるメジャーリーグのプレーオフは、公式戦終了後、2日間だけ間を空けて行われる。今季の場合は現地時間の10月3日に公式戦が終了し、5日には地区優勝シリーズがスタートした。プロ野球のような、消化試合を半月、あるいは1カ月近くも続けることなどあり得ない。プレーオフと公式戦の日程を重ねることなど論外である。

サッカーの場合はもっと徹底している。W杯期間中、国際サッカー連盟(FIFA)と加盟各国のサッカー連盟は、他の大会を一切開催しない。だから、W杯決勝戦の開催日は、草サッカーや地域大会を除けば、世界中で開催されるサッカーの試合は、W杯決勝戦だけになる。4年に1度開催されるメーンイベントに、世界中のファンの関心を引き付けるためである。

その年最高のイベントとなる試合と消化試合を重ねるなどという馬鹿げた日程を組んでいるのは、世界中のスポーツ界でも、恐らく日本のプロ野球だけである。

横浜―ヤクルトの消化試合など誰が見るのかと思ったが、翌日付の新聞の記事によれば、この消化試合中の消化試合が行われた横浜球場には2万4千人が集まったとある。

プロ野球では、各球団の財務状況は開示されない。選手の年俸、契約金は「推定」である。球場の入場者数も有料入場者数の実数は公表しない。端数なしの「主催者発表」の数字である。プロ野球の入場者数は下駄を履かせるのが当たり前になっているが、それにしても信じがたい数字である。

プロ野球はファンの声を無視する「殿様商売」を続けている。こんな消化試合に2万4千人も観客が集まるならば、殿様商売は今後も安泰だろう。しかし、近鉄本社は年間40億円もの赤字補填に耐えられなくなったとして近鉄球団を「処分」した。パ・リーグは、リーグ自体が経営破綻状態にあるとしている。横浜、ヤクルト両球団も赤字経営である。

プロ野球のファン無視の姿勢はいろいろある。その最も極端な例が、1リーグ化を強引に推し進めた一部オーナーたちの動きである。彼らは、エンターテイメント産業に身を置きながらも、その意識はまったくない。ファンの声を聞くどころか、1リーグ化に向けての「市場調査」さえ行わなかった。

そんな彼らだから、日本シリーズ開幕戦と消化試合を同じ日に行っても、それがファンを無視する行為だとは考えないのだろう。彼らの言う「球界改革」は建前だけであるということを、この日程がはっきりと示している。球界内部からは、日程を改めようという声はでてこない。球界に「反省」という言葉は存在しないようである。

日本シリーズ開幕翌日付の朝毎読3紙をあらためてチェックしてみたが、ファン無視の日程を批判する記事は1本もみつからなかった。メディアもまた、本音では時代遅れになった球界の殿様商売にお付き合いしているだけである。(2004年10月20日記)
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