執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

2週間前の週末、布引山地をドライブした。三重県を南北に走る屏風のように切り立った山塊である。標高は800メートル前後と決して高くはないが、古来、伊勢国と伊賀国を隔ててきた。山の東側に降る雨は伊勢湾に流れ、西側は遠く大阪湾に達する紀伊半島の分水嶺は随分と東寄りにあるのだ。

津市の郊外の温泉地、榊原の里からつづれ折りを約30分ほど駆け上がると頂きに到着する。山頂は青山高原といって、眼下に伊勢平野と伊勢湾を見下ろす絶景である。

この高原が全国的に注目を集め始めたのは、山頂に点在する24基の風力発電の風車が建設されているからである。21世紀のエネルギーの最前線基地といってもいい風景がここにはある。1999年5月の完成し、総発電能力が1万8000キロワット。4基は久居市営だが、残りは青山高原ウインドファームという第三セクターが経営する。

ここにさらに10基の風車を建設する計画があり、完成すると名実共に国内最大の風力発電基地となる。総発電能力は3万キロワットだから、人口4万2000人、1万6000世帯の久居市の全世帯の消費電力をまかなえるようになるという。

神戸市にある神戸製鋼の140万キロワットの火力発電所は神戸市全体の消費電力をまかなえるということで有名だが、神戸市の場合はあくまで火力発電。こちらは自然エネルギーだから自給の意味合いが違う。そしてその歴史的価値も革命的に違う。

日本で風力発電はコストが合わないといっている間に、世界では風力発電がエネルギー源として不可欠な存在となっている。風力による発電量でいえば、ドイツが世界で最先端を行く。デンマークでは国内の消費電力の10%まで風力でまかなうまでに到っている。スペインでもアメリカでも、中国でも大型の風力発電所の稼働が相次いでいる。

日本でもようやく風力発電所の見直しが進んでいるが、まだまだファッションの域を出ていない。国民はまだその潜在力を信じていないし、コストが高すぎると信じている。

そんな中で、風力発電を行政の柱にしている自治体が現れたことは心強い。しかも移り住んだ三重県の地で起きていることは嬉しいかぎりだ。問題はその久居市が来年には市町村合併で津市に飲み込まれることになっていることだ。