執筆者:馬部 敏哉(ばべとしや)【NewZealand在住】

少々タイミングがずれてしまいましたが、1998年06月08日付萬晩報「移民が支える起業家精神」を読んで、ニュージーランドの状況をちょいと述べたいと思います。

ニュージーランドに移住しまもなく4年が経とうとしております。ここは世界で数少ない特別な条件なしに移民(永住権)が出来る国です。現在では大学卒が基準のポイントとなっていますが、日本の高い大学進学率を考えると日本人なら相当数の方が望みさえすれば永住権を取得できるのです。

旅行関連の仕事をしています。この国の「良いところばかりが見えたり」「逆に悪い面ばかりを気にしたり」と気持ちが揺れ動きましたが、今ではおおむね、ニュージーランドの方が日本より暮らしやすいのではないかと思っております。永住権があるため社会保障から選挙権までニュージーランド国民と同等です。

●2年住めば与えられるすべての社会保障と選挙権

少し前までは永住権を取得し12カ月ニュージーランドに住めば諸権利が与えられたのですが、いまではその期間が2年に伸びています。それでも2年です。アメリカは5年ほどだと聞いております。

移民を申請すると最初は4年間有効の再入国許可が与えられ、その間にニュージーランドに入国しなければなりません。そして2年この地に住めば、一生有効の許可証に切り替えることが出来ます。3年住めば市民権(国籍、パスポート)が取得出来ます。

永住権と国籍の違いは生活をニュージーランドでしている限り、ほとんど違いはありません。ほんの少しの例外を除いて「市民権または永住権」と言う表現で両方ともニュージーランド国民として扱っております。一部の被選挙権とスポーツでニュージーランド代表になれないぐらいしか思い付きません。社会保障も選挙権も同等です。

実際、私も働く前にエンプロイメント・サービス(職安)に登録し、失業手当をもらった事があります。そして、そこで開業を申請しそのプランが認められると開業資金(5000~8000ドル)まで出してくれたのです。それで私は現在の仕事を始めました。失業手当も現在では働かせようとプレッシャーがきつくなりましたが一応今でも無期限でもらえます。

基本的に手当の類は現在の収入によるもので、車があるからとか大きな家があるからとかで打ち切られることはありません。当然、家のある無しで支給額は違います。生活コストが違うからです。

あと、実利的な大きな違いはニュージーランドの市民権があれば、オーストラリアにも住める、つまり永住権が与えられるという特権もあります。とりあえずニュージーランドの市民権を取って、その後オーストラリアに引っ越すという人々も珍しくありません。

これは移民だけでなくニュージーランド生まれの人も相当数がオーストラリアに住み、仕事をしています。オーストラリアの方が仕事も多く給料も高く、物価が安いので経済的にはここよりも暮らしやすいのです。
●問題は賃金の安さと物価の高さ

最大の問題は賃金の低さです。物価は安くありません。物自体は賃金比較でなくても日本の方が安いぐらいです。新聞記事でしばらく前に見たのですがオークランドの52%の人が年収2万ドル(1ドル=70円)を超えないそうです。統計の取り方でどうとでもなると思いますが、専門職でない限り時給は12ドル最高ぐらいですから、時給12ドル×40時間×52週=約2,5000ドル(約20%の税込み)辺りでしょう。

手取り150万円以下です。年齢性別関係なし同一労働、同一賃金です。日本でのこの言葉の意味とはちょいとニュアンスが違います。 10年働いても同じ仕事をしている限りは賃金はほとんどかわりません。よくこんな賃金でみなさん豊かそうに暮らしている物だと思います。不思議なことです。

ニュージーランドは田舎です。悪い意味でも、良い意味でも。人は親切で安全です。大きなマーケットのある国ではありませんが、それだけに日本やヨーロッパにはもう残されていない隙間が方々に残っています。起業家精神、チャレンジ精神のある方、一発、如何ですか。税金は最高で33%ですので日本より残せますよ。

市民権を取得したところで、ニュージーランド国籍が追加されるだけなのでおおげさなことではありません。ニュージーランド国民になったのだからそれでどうと思う人は少ないでしょうね。単にオプションが一つ増えたと思うだけでしょう。そう、ニュージーランドでは国籍をいくつ持ってもかまいません。帰化と言う言葉に違和感があります。今までの自分の生きざまをすべて捨て去ってその国に染まるような、良い印象の言葉ではないですね。

日本人は国とか国籍とかを大袈裟に考え過ぎているのではないかと思います。政府のPRの勝利かな。そうでなければ、公共事業や銀行救済のあほくささ。日本人は日本から逃げ出さないと政府は高を括ってるから出来るのだと思います。移民を入れた分だけ海外に日本人が移民すれば問題はないのだけど、そうなると能力ある人はすべていなくなってしまい、出れない人だけが残ってしまいそうです。

中国人や韓国人をはじめ諸外国の人は、金持ちあるいはインテリ層がよく移民しますが、有産階級の日本人は少ないですね。(際的に見れば、日本の庶民の相当数は有産階級に含まれるでしょう。家やらなんやら売ればすぐに5000万円ぐらいはなんとかなるでしょうし、一族郎党からの援助も期待できるからです。(BABE Toshiya)

1998年06月13日付萬晩報「【読者の声】レンタカーの旅でアメリカびいきになった友人」には読者の声が掲載されていましたが、いくつかのメールにコメントしようと思います。

【「道路から下水道にいたるまで当事国民の税金で賄われるサービスを当然のごとく受けている」と言いますが、我々は決して税金を払っていない訳ではありません。駐在員として合法的な移民であり、給料を貰って生活をしています。 すなわち、米国連邦税、州税、固定資産税(屋賃を家主に払うことで間接的に税を納める。これが直接に教育に使われる)などは当然の義務として納めております。よってサービスを受ける権利を有するものと思います。】

確かにアメリカでもここでもそれは当然そうなのですが、日本は違います。 日本に住んでいる永住権を持っている外国人は選挙権もない、公的な仕事にも付けない。法律以前に家を借りる時、大企業に就職、いろいろな障害があると思います。義務だけはしっかり。特に日本生まれの在日韓国、朝鮮人はニュージーランドに住んでいる日本人に比べると明らかに権利、自由がありません。

日本から派遣されている駐在員は先進国においても特権階級に属するという事を認識されている方は大変少ないと思います。あなた自身の努力とリスクチャレンジで掴み取った座ではありますが、あなたは特権階級に属していて、高みにおります。それを意識しないで行動すると問題が生じがちです。日本からの駐在員はニュージーランドの現実世界と考え方、経済力とも乖離している場合が多く見られます。

【日本人にアメリカインディアン並み(もちろんアメリカインディアンを貶める意図はありません)の立場になる覚悟なりがあり、それでも日本社会の活路を求めるため移民的な要素を受入れる、というのであれば賛成です。】

奇妙な事に役所や業界の既得権を守ろうとしている人と同じ論理ですね。そこまで、恐怖感を持つ必要はないと思います。国境を自由にしている国は存在していません。当然条件に適った人のみでいいわけですから、無理のない範囲で計画的、人道的に受け入れれば良いのです。ニュージーランドにしても移民受け入れは国にとって得になりそうな人のみ受け入れています。

ニュージーランドみたいな小国で移民に対して様々なサポートやサービスをしています。失業率も低くありません。それでも、移民を人間として平等に扱っています。日本のGDPはアメリカの2/3もありますから、100万人単位の移民が居たところで経済的にはニュージーランドより余裕があります。現に100万人を遥かに超える外国人がすでに日本には住んでいます。もう数としてはここよりも圧倒的に多くの移民希望者、出稼ぎ者(合法、非合法問わず)が日本に現実に存在しております。基本的に日本は社会保障のない国なので、コストもたかが知れています。

それを、ずっと外国人扱いにしておくのはユーザーには都合は良いですね。移民は決して侵略者ではありません。ここでは、移民の方が平均的なニュージーランド人より教育程度も高く、有能です。外貨も持ってきます。

ただ、最大の問題は移民は条件が良いところに何処にでも行きますから、その国の総合的な魅力がなければ留まってくれません。特に有能な人ほど国境で縛り付けることは出来ません。私にしても今はここを気に入っているから住んでいるけれども日本でもオーストラリアでも何時でもいけるわけですから、国にとってはしたたかな相手とも言えます。

馬部さんへのメールはTrout_Bee@xtra.co.nz