揺らぐ規制列島⑤の④

 「今時、なんでSGマークを付けなきゃならないんだ」(スポルディング・ジャパン)―。通産省が認定する安全基準のひとつであるSGマーク(セーフティーグッズ)の対象品目に、このほどゴルフクラブと、シャフトが追加されたことに外国メーカーは不満の色を隠し切れない。
 ゴルフクラブによる事故を防止するため、折れ、曲げ、ひねりなどの強度を定めた基準で、業界団体の日本ゴルフ用品協会は「安心基準の作成には異論がない」(木田旭専務理事)としつつも、受け入れの各論をめぐって反対意見も多いと言う。
 最大の問題はSGマークを張るために、メーカーが通産省の外郭団体、製品安全協会(三村清理事長)に支払う手数料だ。現在小売価格の0.5%を上限とする攻防がメーカーと協会との間で続いている。不況の最中に消費者に新たな負担を強いるとの不安もあり、通産省が認定した安全基準を業界が『け飛ばす』前代未聞の事態となる可能性もあるという。
 SGマークは1986年に貿易摩擦問題にも発展したことがある。ロシニョールなど欧州のスキー板メーカーが「輸入障壁」と反発、これに対して通産省が『日本の雪質は欧州とは違う』と抗弁して失笑を買った件だ。
 欧州側はスキー先進国が加盟する国際標準基準(ISO)の基準と比べて厳し過ぎると猛反発したため、安全基準の大幅緩和を余儀なくされ、今ではSGマークを付ける国産メーカーさ
え少ない。
 SGマークは基準をパスした製品に付け、事故時に最高3000万円の損害補償を受け取れる制度メリットもある。電気製品に義務付けられた電気用品取締法に基づく「〒マーク」と違って原則は任意の基準だ。
 同制度の発足は1973年。これまでは確かに粗悪乱造品を排除する役割を果たしてきたが、メーカーのよるの生産技術の向上によって『企業の方が、国の基準よりずっとレベルが高い独自の製造基準を設定している』(佐藤東里日立製作所副社長)のが現状だ。
 「もはや国による安全基準は不要だ」(島野康国民生活センター調査役)との声も強まっている。にもかかわらず対象品目は老人用つえやベビーベッドなど増加する一方。現在日用品を中心に99品目にまで膨んでおり、三村理事長以下通産官原が天下る同協会は確実に業務範囲を拡張している。
 国による安全基準の対象品目拡大は、規制緩和を重視する細川政権の基本政策にも逆行している。欧米での安全基準の維持は既に製造物責任制(PL)法にゆだねられており、日本でも製品の欠陥による事故に対してメーカーが重い責任を問われることになれば今より「安全性が高まることはことは確か」(島野調査役)だ。
 PL法制定論議の高まりとともに、安全基準に対する世論は国への依存から企業の「自己責任制」へ大きく転回しつつある。