揺らぐ規制列島⑤の③

 「一番問題なのは、入社後数年で転職する第二新卒や管理職でなかった中高年サラリーマン、再就職を希望する女性に職業を紹介できないことです。公共職業安定所(職安)はほとんど機能していない。労働市場は急速に流動化しているのに、情報誌や広告しか頼れないということになる」
 民間職業紹介業キャリアプランニングセンター(東京)の横倉馨社長は、労働省の対応に不満がいっぱいだ。若者や女性の就職観の変化に加え、不況の長期化で終身雇用が崩れつつあるのに、行政が遅れているというのだ。
 日本における民間の職業紹介は、職業安定法で厳しく制限されている。1947年に制定された同法の最大の目的は、戦的、戦中にはびこった人身売買、タコ部屋、ピンハネなど、労働省なりの搾取を防止することだった。
 このため、職業紹介は原則として国(職安)が行うこととし、民間には国では十分できないような職業に限って認めることにした。それは現在、29業種。しかし、その中で現在も職業紹介業が成り立っているのは看護婦、家政婦紹介所、マネキン(専門的な商品知識を持って販売する人)紹介所など、ごく限られている。横倉社長が挙げたような人たちはこれに当てはまらないため、職業紹介できないのだ。
 職業安定法は、国際労働機関(ILO)96号条約(有料職業紹介所に関する条約)に裁づいており、日本は同条約を批准しているため、簡単には同法を改正できないのも事実だ。
 しかし、ILO内部にも最近、同条約の見直しの動きが出てきた。自由尊重の機運が強い米国や英国は同条約を批准していない。さらにILO関係者を慌てさせたのは、昨年ドイツが同条約を破栞したことだ。欧州共同体(EC)統合により、加盟国のほとんどが条約を批准していない現実にドイツも追随したのだ。
 日木の現実は法規制を越えて進みつある。
 職安は全国に600カ所あるが、「職安を通して就職先を探している人は今や一割台ではないか」(佐野陽子慶応大教授)との指摘もある。
 代わって無許可の紹介業が増えている。米国資本の中高年転職コンサルタント業ドレーク・ビーム・モリン・ジャパン(東京)は、有料の職業紹介はやっていない、という理由で労働大臣の許可は取っていない。梅村和比己チーフ・コンサルタントは大っぴらに行政を批判する。「うちは職業紹介に関しては無料です。無料でも詐可がいるなんてナンセンスですよ」。ヘッド・ハンティングでは無許可の外資系企業が急増中だ。
 労働者派遣大手パソナ・グループのパソナブライトキャリア(東京)の森下一乗社長は国は本当に困っている人とか、障害者など非営利的部分を受け持つべきだ。より良い就職先をまめているような人は、企業と対等の立場なのだから搾取の心配もない。民間に任せた方が効串的だ」と提言する。