信濃毎日新聞1993年10月14日

 揺らぐ規制列島➄の①

 消費者本位を掲げる細川首相が政策の目玉に据えた規制緩和。近くまとまる第三次行革審の最終答申でも大きな柱になる。政・官・業の癒着を断ち切り、ドル=100円円時代の内外価格差足正のためにも急務になっている重い課題の攻防に迫った。
 自民党が過半数割れした7月18日の総選挙直前に駆け込むように出された国税庁通達が今、洒類安売りのディスカウントストア(DS)業界を直撃している。
 「店を拡張したいだが、この通達のせいで酒が売れなくなった」-和歌山市のDS紫屋の中山貞雄社長は、店舗増床の届け出のため和歌山税務署を訪れたところ「新しい通達により新規免許が必要」と届け出の受理を拒否された。
 問題の通達は酒販販売免許取り扱いの一部改正。300平方メートル以上増床し、三百平方メートル以上の店舗になる場合は、これまでは届け出だけで済んだ。しかし、この通達で免許制に変更となり、DSの新規出店は事実上制限を受けることになった。
 紫屋の新店舗は500平方メートルの大型店。8月に完成したが、新しい通達のせいで目下棚ざらし状態。怒りの治まらない社長は現在弁護士を立てて税務署と話し合い中だ。
 現在、全国の酒販店は約15万店。うちDSは約1000店だが、売上高では1割弱を占める。
 例えぱビール。普通の酒屋で買えば350㏄缶24品入りの箱が5280円だが、DSでは3900円台で売るところもあり「数年後には2割近くまで成長する」(大手ビール会社)との予測があるほど。
 既存の酒販店にしてみれば危機感を持つのは当然でむしろ「業界秩序維持につながる」とこの通達を評価している。
 通達の発信源は昨年11月に突然発足した自民党財政部会の酒問題小委員会。「酒類流通秩序の維持」を目的として、国税庁に免許制度の連用強化を求め、公正取引委貝会に不当廉売の監視強化を要請した。「そもそもは兵庫県・淡路島の酒販店が地元の有力政治家に泣きついたのがきっかけ」(吉田豊流通問題研究所代表)といわれている。
 既存の小売業界の団休である全国小売酒販組合中央会は「自民党とは金と票の太いパイプがあり、困った時には働いてもらえる」と吉田代表。さらに国税当局との関係も「酒販組合は税務署が酒税確保のため毎日行っている酒類の販売量調査を無料で代行しており、持ちつ持たれつの関係」(愛知県のDS業者)と指摘する。
 国税庁は、今回の通達について「基準の明確化が目的」と言い切るものの、政、官、業で長年培われた”連携”の構造が透けて見える。
 細川内閣が実現を目指す規制緩和の項目を発表した後の9月21日。宮城県・松島で開かれた全国のDSが集まった親ぼく会で、山内英房会長は既存の酒販組合中央会に対抗できる新たな組織旗揚げの必嬰性を訴えた。
 「自由化、規制緩和の風が吹いている今、これまでの業界秩序や通達を崩さなければいつやるのか」
 一方、細川政権の規制緩和項目の中に酒の販売免許が入って以来、酒販組合中央会には地方組織からの突き上げの電話が殺到。自民の後ろ盾を失った中央会は、変わり身速く、新生党の小沢一郎代表幹事に酒類販売奘免許の維持を求めた要望書を提出。目まぐるしい攻防は生臭さを放ちつつある。