座談会 今後の成長を模索する浦項綜合製鉄

 重工業を担当する新聞記者で組織されている重工業記者クラブの有志(団長共同通信伴武澄記者)は、このほど世界第2位の製鉄会社に躍進した浦項綜合製鉄㈱浦項・光陽の両製鉄所を訪問した。編集部では、常時日本鉄鋼業を取材対象としている記者が、韓国鉄鋼業および韓国社会の現状について、どのような印象をもたれたか、語ってもららた。
 
出席者 共同通イ言記者 伴武澄
    時事通信記者 大井誠
    日刊工業新聞記者 鶴田東洋彦
    日本工業新聞記者 神卓己
    毎日新聞記者 内野雅一
司 会 日本鉄鋼連盟常務理事 戸田弘元

 【鉄は国力】
 ― 本日はお忙しいところありがとうございます。今回、浦項綜合製鉄㈱光陽および浦項製鉄所の見学というものを中心に、大変短い期間ですが、韓国の鉄鋼事情というものを見てこられたわけです。韓国鉄鋼業については、非常に発展しているという印象が一般的な考えになっていることは事実ですが、現実に韓国鉄鋼業をご覧になって、どのような印象をもたれましたか。団長を務めました伴さんから。
 伴 アジアの巨大な製造業を見るというのは初めてだったのです。今まで、80年代は日本がいいんだという時代があって、去年当たりから日本もおかしいんじゃないかと言われ始めました。そういう時期にわれわれは韓国鉄鋼業を見たんですけど、常に日本が進んでいるという考え方でいたものですから、驚きがあまりにも大きかったのです。とくに製鉄所というのは巨大な施設で、これが日本の場合だと非常に入り組んだ構造になっていて、中に入ってしまうと何が何だかわからない。そういう中で光陽製鉄所は整然とした施設で構成されており、製鉄所のイメージが全然違ったというのが第一印象ですね。それともう一つは、日本に昔あったような良い面で、設備を大切にしてるなという印象を受けました。

POSCOの光陽製鉄所


 神 とにかく日本との格差というか、年月の持ってる設備の差というのをあらためて実感しました。
 ひとつ印象的だったのは、光陽の製鉄所長が、大分製鉄所が20年前に100%連鋳を導入したことを非常に尊敬に値いする決断だというふうにおっしゃったんです。実際にそういう話を聞くと、日本の製鉄所というのは非常に古くなったんだなと思いました。大分でも20年経つたんだなと思うのとともに、先進的な技術も非常に早い時期から採り入れてやっていったんだなというのもひとつわかったことです。そんな印象を強く持ちました。 内野 韓国の鉄鋼人との話のなかでは、われわれ日本のマスコミが行ったせいかもしれないですけど、非常に一部遠慮した見方が印象的だったですね。
 日本との調和を考えていく前提として、これからは過去の歴史を背負った遠慮をあまりしないで、むしろ、1つの国と1つの国、1つのメーカーと1つのメーカーという経済合理性なり、今後アジア経済を考えたうえでのスタンスをきちっと出していくことが韓国の方に求められているのではないでしょうか。あんまり過去をひきずらないで、それに乗っかった遠慮をしないで、うまく物を言っていく。またそれを日本が受け止めていく必要があります。
 ― 日本鉄鋼業と比較して、韓国鉄鋼業のここがどうも違うなというところはどういう点でしたか。
 大井 バイタリティーというか、活力の違いというのを感じました。韓国というのは、朝鮮戦争後に朴大統領の強い意志のもとに経済発展を進めようと一貫製鉄所建設を決断して、あっという間にあれだけの規模のものをつくっている。日本が100年かかっているものを25年程度でやってるわけですね。その中で、韓国鉄鋼業にはバイタリティーというのはまだまだありますが、その点日本の鉄鋼業は、100年経って成熟している。活気という点で少し欠けるんじゃないかと思いました。役員の皆さんたちも、自分たちのやってることに対する意欲というのがひしひしと感じられる。技術系の人でも、非常に視野を広く持って、なかなか頑張っている。そこの違いが一番印象としてありました。
 内野 まず、韓国の鉄鋼人はよく勉強しているという印象をもちました。自分の企業のことだけではなくて、世界的なこととか、もちろん日本や中国のことを担当者だけでなくて、ある程度の地位、役職に就いている人全てがほとんど理解して自分の知識として持っており、それをまた堂々とわれわれに話してくれるという懐の深さですかね。そういう面がまず第一印象でしたね。
 あと、新しいということもあってハードの面で非常にきれいで。それはいろんな手を加えて常にきれいに保とうという努力も結構してるような印象でした。
 ― 浦項製鉄所建設の第1、第2ステージまで、550万トンまでは日本が技術協力して、それ以後は日本以外の国が協力しました。そのようなことの持つ意味について、韓国側はどういうような見方をしているのでしょうか。
 鶴田 POSCOの立っている基盤が日本と決定的に違うと思うのは、国家というものをものすごく意識しながら企業として成り立っているんじゃないかということです。
 POSCOの場合は、企業としてのシナリオと同時に、国家のシナリオにも沿って、韓国唯一の一貫製鉄会社としてあたかもひとつの巨大な船のような形で走ってきているという印象があります。
 恐らく浦項製鉄所の第1期の頃は、日本が舵取りを世話したと思うんですけれども、いまはむしろ新日本製鉄に次ぐ世界第2位の製鉄会社になって、自分でかなり自由に舵も切れるし、かなり自由に動き回れるようになったと思います。ですから、例えば輸出戦略にしても製品開発にしても、企業として考えれば、本来もっとやれることがあるんじゃないかなと思うのです。しかし、国家の立場を考えなければならないだけに、現実的に話を聞くと非常に慎重なんですね。
 恐らく世話になってきた日本に対して気をつかわなければならないと考えている部分はありますね。同時に鉄鋼大国である隣の日本という国の虎の尾はなるべくを踏まないようにという考えがあるんじゃないでしょうか。多少本音の部分と建前の格差があるような気はしますね。
 ― 韓国鉄鋼業に、「鉄は国力」というスローガンがあるんですよ。POSCOがやらなかったら韓国の経済発展、工業発展はないだろうという意識が根底にあると私は思うわけです。日本も「鉄は国家なり」という時代があったけれど、韓国のいう「鉄は国力」というのは、新しい時代に向けてこんな感じの意味だなというのは何か感じませんでしたか。
 伴 象徴的というか、車を200万台つくっているという話を聞いたときに実はびっくりしたんです。われわれ日本で教わったのは、鉄の時代があって、その次に自動車の時代、電機の時代を経てくるということです。
 鉄と直接的には関係ないですけど、半導体市場でも、米国で4メガの記憶素子でかなり価格競争力を持って食い込んでいる。丁度鉄鋼業が日本に追いついたと同じ時期に起きている。それは鉄鋼業がもたらした産業界への有形無形の大きな影響だと思うんです。

 【高付加価値化への道程】

 ― 1990年代の後半には多分韓国はOECDに加盟すると思うんです。韓国経済が非常に発展し、いわゆる工業化社会に突入してくると当然鉄の消費構造も変わります。現在一人当たり鉄鋼消費量は600キログラムある韓国の需要というのは、今後は量から質へ転換していくということになりますね。そういう中で、皆さんとの意見を交換したPOSCOの経営当局はどういう見方をしておられたでしょうか。
 大井 会長が、開口一番われわれに言ったことは、量的拡大はもうこれで終止符を打ち、質的な向上を目指すということでした。それがいまのPOSCOの大きな課題です。量的な供給はこれまでしてきた。ところが、いま韓国は自動車を輸出する場合には日本と競争しなければいけないので、同じような品質を求められる。ということは、POSCOはものすごく短い期間の間に品質を日本と同等のものに上びていかなければいけない。そこがいま韓国自動車メーカーがPOSCOに求めていることであり、そこを敏感に感じているんだと思うんです。とにかくサービスを向上させなければいけない、品質を向上させなければいけない、これを徹底していると協調しましたね。
 日本がやったと同じように、メーカー毎に技術、販売担当の4人のチームをつくって、需要家のニーズは全てその人間がつかんで商売する。全ての需要家に対してそういうチームをつくるということを去年ぐらいからやってるようですし、そういう努力というのはまさに質的なものを上げようという努力の現れです。そこのところがまだキャッチアップできてないから、未だに対米輸出用の高品質の自動車用鋼板はやはり日本から入ってます。
 ― 光陽製鉄所はどちらかというと大量生産型の近代工場、浦項製鉄所は、新しい小ロット多品種生産的な高級鋼材志向というふうに分けられたと聞いています。製鉄所に具体的に行かれて、特徴的なことだな思ったようなことはどういうことですか。
 神 本当に韓国はこれからは質を求めてやっていけるのかというところに疑問を持っているんです。質にもいろいろありますが、ホットや冷延鋼板の質を上げたいところがあるし、高付加価値化を図りたいという側面もあるでしょう。ただ、高付加価値化を図りたいといっても、まず技術の壁があります。
 これは日本の協力を得ないとなかなか日本のレベルに追いつくのは難しいというのがひとつ。それから売り先がありません。表面処理鋼板の需要は米国と日本しかないですから。産業の高度化、国内の産業が活性化しても、受け入れられないと、高付加価値鋼板を大量につくってさばくことはまずできないと思うんです。
 ただ、実際当面どうするのかといえば、量産型の光陽製鉄所をフル稼働させて、償却負担をまず解消しなければならないですね。フル稼働させていかないと、ああいう新設工場でまず採算は合わないと思うんです。高付加価値化を図って表面処理鋼板をつくっていこうとなると絶対生産性は落ちるわけです。だから当面それは志向しない、志向できないと思うんです。量をさばいていくことを当面やらざるをえない。
 海外へ出ていくというのは、常に需要先を求めているわけで、ブリキにしても他の表面処理鋼板をやるにしても、自分のところから原板を出すというのが前提でしょう。
 ― 輸出にはけ口を求めざるをえないという要素はありますね。その点についてはどういうふうに言っておりましたか。
 大井 それについては、われわれは国内供給を第一に考えているが、ある程度の輸出も必要ということを言ってましたね。つまり日本と事情は同じですけれども、原料はほぼ全量輸入している。したがって、それを賄う分の3割ぐらいは輸出することを考えてます。しかし、われわれは必ずバランスを考え、無秩序な輸出攻勢はしないと言っていました。これは再三強調していました。
 一番ぼくが印象的だったのは、ソウルで会った日系商社の人が、「この空気の汚さを見てください。これは車の環境対策が甘いせいですよ。しかし、こういう車では日本や米国には輸出できません。」と言っていました。そのためには排ガス対策や車体軽量化、あるいは米国に輸出するならば、錆びないようにちゃんとした鋼板を使わなければいけない。そうするとそれなりの需要は出てくると思うんです。この間、新日本製鉄が表面処理鋼板の技術を供給しました。それは起亜がマツダと提携していて、そこから高品質の鋼板の供給を受けないと輸出用の車ができないという経緯が多分あった。そういう限定的な形ながら、つまり輸出に引っ張られる形で高品質のものはある程度進んでいくと思うんです。
 ― 韓国の国民経済構造、産業構造が高度化し、需要は多様化する。需要サイドが高級化するのに応じて鉄鋼業の供給体制を合わせていくという場合に、鉄鋼業をサポートする、例えばコンピュータ技術、加工組立産業との良好な関係、計測制御技術の発展とか、非常に調和のとれたより高度な鉄鋼業に向かっていくための条件について、いまの韓国はどの程度まで揃っていると見ましたか。
 伴 6年前にアジア経済で企画をやったときには、非常に歪な形の報告をわれわれはしました。突出している部分というか、最先端に近づいている部分とあまりにも遅れている部分がモザイク的にある。日本のように総合力がないんだというようなことだったんです。しかし、半導体にしても、6年前に大手鉄鋼企業と国が一緒になって研究開発を始めたのが、もう5年後には米国でシェアトップになっているというようなキャッチアップの速さを見ると、いまの断面で見れば日本から遅れてる部分がかなり目立つんでしょうけれど、総合力で見て欠けている部分については、隙間を埋めていくような感じを受けています。
 大井 基本的な機械類は全て輸入品ですよね。POSCOの生産設備は三菱重工業製です。韓国の国内で鉄をサポートする部門は多分遅れている。
 しかし、それはキャッチアップを速くするためのやむをえない結果です。何も全てを国産化しなくても、日本や欧州から優秀な機械設備を導入すれば済む。しかも発展途上国援助ということで、向こうから売り込んでくる。これは多分韓国だけじゃなくて、アジアの他の、いわゆる途上国の製鉄業全ての行動様式だと思うんです。最新の設備は欲しいといえば先進国からもらえるわけですから。
 ― そういう高度な鉄鋼製品をつくるのにソフト面がビルトインされてるかという問題があると思うんですが、どうでしょうか。
 神 現代自動車に行って、同社のスタッフに日韓の技術格差について話をしました。
 端的に言って、日本車と韓国車と何年ぐらいの技術格差があるのかと聞いたわけです。彼らは10年だと答えました。私の印象としては、もっと近いと思っていました。彼らはそういう点では、いっぺん輸出市場に出て行って、揺り戻しに合い、国際競争力を回復するのに躍起になったわけですね。
 ところがそれはやはり非常に厳しい。韓国車がすぐに国際競争力を回復できるかというと非常に厳しい状況にあるんじゃないかと思います。いかに自動車なり家電、電機なりが、どこまで技術的に高度化するのかということです。
 ただひとつ、韓国の自動車産業なり電機産業は合理化の余地に気付いてない部分がまだあるんじやないかと思います。少数のトップはそれに気がつき始めてる。だから、それをやろうとしてるんだけれど、しかしそれが、韓国の組合なり現場レベルで変わるかどうかということです。
 鶴田 光陽製鉄所に行ったとき、所長主催の会食で副所長がたまたま隣の席にいたもんですから、逆に彼の方から質問されたのは、日本の鋼板の品質の問題です。コストを掛け品質をより高度化していく、高付加価値製品をつくっていき、果たして日本の鉄鋼業は投下したコストに見合ったエキストラをきちんととれてるのかということです。結局、高付加価値化というのはコストを掛けて付加価値を付けるということであり、それなりのリターンがないと何のための高付加価値化か分からない。つまり製鉄業は成り立たないわけです。日本は確かに製品の付加価値化を図ってはいますが、いまエキストラもとれないような状況で、業績も悪化しています。一方で自動車とか家電なんかは、表面処理鋼板を一部冷延鋼板に切り替えるとか、コスト見直しのため、鉄鋼メーカーに製品供給の変更を迫っています。そういう状況で、いまのPOSCOの方向を考えたら、部分的にクオリティーは高めていきたいが、やりすぎたら逆に日本のようなことになるんじゃないかという懸念もあると言うんです。そうすると、適正な品質のものを適正な価格で売れるというのは、韓国内においては当面の間は成り立つだろうけれども、国際社会に出て行った場合にそれは成り立つとは思えないということを逆に聞かれたんですよ。POSCOの高付加価値化に向けての迷いは、そのあたりにもあると思うんです。

 【韓国のリーディングカンパニーPOSCO】

 一 日本の読者が一番知りたがっていると思われる1つに、韓国鉄鋼業のいわゆる電炉問題があるわけです。POSCOはコーレックス法の導入、電炉への進出という話がありますね。このへんのところはいろいろ日本で報道されましたけど実際はどうなんですか。
 鶴田 韓国の韓宝鉄鋼が直流電気炉と薄スラブキャスターにより、牙山に電炉の薄板一貫工場つくるという話があります。    POSCOは、この韓宝鉄鋼の計画をすごく強く意識しているように感じました。韓宝鉄鋼が牙山に工場建設する時期に合わせて、光陽製鉄所内に豊富にあるスクラップを有効利用して、なるべく早く韓宝にキャッチアップしておきたいという思いがあるようです。対日戦略ということではなくて、今13社ある韓国の電炉企業の中でPOSCOとして早めにある程度のポジションを確保しておきたいということを正直いって強く感じました。
 ― 輸出と海外事情と二つありますが、海外進出問題については皆さんにどのように説明されましたか。
 伴 丁会長が言っていたのは、われわれは国内需要のためにやっているということです。数字をあげて説明されて、3,200万トンの国内需要に対してわれわれは2,000万トン強の設備を持っている。これでもう十分で、あとは電炉でやればいいんだという考え方ですね。
 話は前後するんですが、日本の国内需要は7,000万トン強くらい。それに対して粗鋼生産能力というのは相当上回っているわけですね。もちろん韓国も輸出しているんですけど、それに見合った分も輸入している。日本は輸出が仮に駄目になったら、相当生産を落としていかないといけない。少なくなった高炉をさらに減らしていかなければいけないかもしれない。まだ韓国は発展途上ですから、さらに需要が伸び、2000年になって3,700万トンぐらいにいこう。それでも生産能力の増強はしないという。
 ― 多角化問題については何か触れておりましたか。
 大井 韓国も移動体通信会社、携帯電話の会社を新たにつくるので、それには名乗りをあげてると言ってました。とりあえずそれが多角化の第1案だということです。
 ― 理工系の新卒を採る際、魅力ある産業としてどういう位置づけを行なっているのか。何かそういう悩みみたいなものは聞かれませんでしたか。
 大井 やはり日本と同じように、理工系学生が金融業にとられるということです。製造業の中でも、半導体の方にどんどんとられてなかなか人が集まりにくいということは言ってました。
 ただ、それはここ数年の動きです。POSCOは浦項工科大学、技術研究所というのをつくって、研究開発、技術者養成には力を入れてます。工科大学でいえば、奨学金を含め、かなりの支援を行っている。寄宿舎も全部提供して支援をしているにもかかわらず、POSCOに就職を義務づけてないというところはかなり立派な考えだと思います。それは、今後、21世紀を睨んでの人材育成という、人材確保策の1つであり、長期戦略に沿ったひとつの人材養成方式だと思うんです。
 ただ、当面の人材活用の点では、これまで量的拡大を支えてきた建設部隊をどうするのかが課題です。とにかく5年くらいで土地造成から高炉立ち上げ、火入れまで行ったのですから、非常に多くの建設部隊がいました。これをいま量的拡大は終わりとなったらそこをどう動かすかというのが短期的に見れば一番の課題です。それでいま中国やマレーシアなどに積極的に協力してます。それは対外的にみればその部隊を動かさなければいけないからだと思うんです。
 - 韓国の鉄鋼業を担っている方々の姿勢、物の考え方、そういうもので強く印象を受けた点はどういう点ですか。
 伴 この前も出たんですが、皆で全うだなということを言ったんです。それを裏返せば、歴史感とか世界的な視野も持ち、そういう中で自分の製鉄業があるという感じなんですよね。そういう日本人というのは非常に少ない。これは技術が追いつくとかそういう問題じゃなくて、もっとグローバルに活躍できる人じゃないかなと思うんです。
 例えば結果的に創業以来20年間ずっと利益があがっている。一方、日本はというと、全然利益もあがらないようなことにどんどん金を注ぎ込んでしまうという点があります。韓国側ではこうした日本の状況を反面教師として見てるのか、そもそも経営とはそういうものなのかと見ているのかどうか。韓国の経営者の経営姿勢は、日頃の生産活動、日頃の投資という感じがしますよね。日本はけっこう皆優秀なんですけど、総合力がないから経営というものがどこかですぽっと抜けて、技術者は技術者でやるし、営業は営業でやるし、総体で見たら赤だったという。そういう面で大人の感じですかね。
 鶴田 POSCOというのはかつて韓国の国営企業でもあるし、現在も代表的なリーディングカンパニーの一つであるということもあるんでしょうけれども、役員の発言の中には非常に政治的な発言もありますね。韓国の国内事情だけでなく例えば日本の政治に対する彼らの考え方、あるいは分析の仕方をみても、一カンパニーの人間という立場だけではなくて、極論すれば、もうちょっと背負っているものが違うんじゃないかなと思います。国を代表する企業の一員という自負がわれわれの想像以上に強いんでしょうね。
 内野 あそこも汚職事件があって、創設のときの朴さんが名誉会長を辞めたりなんかしてますけど、それに当たって、変わらなけばいけないということで、新たに企業倫理といいますか、それをつくっているんです。その中にもやはり国家企業としてのPOSCOという、そういうものを考えなければいけないという理念を1つとして挙げてますから、その点は強烈ですね。

浦項製鉄所のサッカースタジアム


 もう一つ、POSCOに行ってものすごくびっくりしたのは、従業員の住宅、福利厚生にかける情熱です。光陽も浦項の製鉄所も巨大な住宅地がある。しかも住宅だけでなく、小学校から中学校、運動施設、スーパーマーケット、全て揃っている。しかも、社宅は借家でなく、全て従業員の持家にしてるんです。もちろん、価格も一般のものに比べれば安いし、資金の融資も確か3分の1まで自己資金があれば、あとの部分は会社の方が融資するというような形で援助してますけど、それを自分のものに、従業員の財産にしてしまう。そういう発想というのは、韓国の中でもPOSCOにしかない企業文化らしいですけどね。
 ―「鉄は国力」という意識の風上の中で、POSCOも世界第2位の規模になったという事実を踏まえて、今後の国際的なアングルというのをどういうふうに捉えてますか。。
 内野 これはちょっと単純な考えかもしれませんが、製鉄の歴史というのは世界的にみると古いわけですね。その中で韓国というのは非常に新しい。新しいとコストが安くできてるわけですね。
 歴史の長い産業の中で、たまたま新しい鉄鋼業を育成してきたいまの段階の中では。価格面とか商品の展開とか、軋瞭が各地で起こってしまう。それを国際調和という観点でどう考えるかといった場合は、むしろ、長い歴史に重きを置くんじゃなくて、いまの現時点の鉄鋼業のコストとか生産性ということをまず出発点と考えて、そこを売り物にして世界に展開していく姿勢が必要だと思います。

 【アジアの中での日韓鉄鋼協力】

 ― 今までは、伸びる一方の韓国鉄鋼業という観点が非常に強かったわけですが。実際に内包している問題というのは日本と同じような成熟型の悩みを抱えている。そういう中で今後の日韓鉄同業の関係というのは、どういう方向に向かうと思われますか。
 内野 日本の鉄鋼メーカーの方の役割というのが大きいんじゃないかと思うんです。日韓で考えると日本の方が歴史が古くて、歴史の古さ故に動きにくさとか、コストの問題などいろいろ抱えてしまっている。その中で日韓関係をどうするかといった場合は、単純に鉄を日本の需要家向けに韓国から少しずつ入れていくとか、それがどういう段階で入れてどのくらいの比率で入れていくのがベストかというのはわからないですが、日本の鉄鋼メーカーとしてはそういうものを受け入れたうえで、では自分たちもどうしたら競争していけるかということを考えなければならない時代が来るのではないかと思います。
 鶴田 日韓二国の関係ということよりも、アジア地域の中で日韓がこれから何をできるかということをすごく強く感じました。丁会長も言っていましたが、鉄鋼業というのは系列化の問題というのはどうしてもつきまとう問題であり、日本の紐付きユーザーにPOSCOが入っていこうと思ってもなかなかそれは難しい。日韓関係というものを日本と韓国との二国間の貿易問題で捉えるのではなくて、例えばこれから伸びていく製鉄国、例えばインドネシアであるとかマレーシアであるとか、これから人口が増えていって鉄を必要とする国で、どのような協力ができるかを考える時代が来たと思います。
 量から質に転換する状況の中で、POSCOは現実に建設エンジニアリング関係の多くの人員を抱えていると思います。そうしたエンジニアリングの人員をどうやって生かしていくかということを考えたら、日韓という問題ではなくて、例えば東南アジアのある国で協力し合うとか、日本が付加価値の高いものを持ってきて、韓国は中程度のもので協力して1つの製鉄設備をつくりあげようとか、そういう形で、新しい形の日韓の協力というものがこれから出てくるのではないでしょうか。
 ― 結論としては、今回皆さん行かれて良かったということですね。
 最後に、鉄と離れて成熟国家としての韓国社会についてどういう印象をもたれましたか。
 内野 韓国病ということが、いろんな形でよく言われるみたいです。1つは経済人で一財をなすと皆政治の方に足を向けることです。そうすると経済の中での人的な蓄積は、ある程度のところまでいくんだけれど、それ以上はできない。その後は皆政治の世界に入ってしまう。政治が絶対みたいな形で常に思われている社会だから、経済社会的には何となく中途半端な部分がある。
 もう1つは、オリンピック以後にかけての景気過熱から含めて言うと、消費が乱熟してしまっていることです。要するに貯蓄をあまりしない。
 韓国社会を日本との比較で考えると、成熟した部分は一部だけで、社会全体の成熟というのはまだ十分達してないのじゃないのかなという印象です。
 外向きにはいろんな製品も一流になって立派な国に見えるけれど、内側にくるとまだまだで、そのために自分たちが我慢している面があると考えられます。
 ― それではこれで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。