1993年7月17日、中日新聞夕刊

(共同通信社の特ダネとして配信された記事。全国各紙の一面トップを飾ったが、「ほんとに間違いないか」との問い合わせが殺到。全農からは「事実無根」と抗議された。結果は、93年末に日本のコメ市場が開放された)

 全国農業協同組合連合会(全農)がコメ輸入を想定、加工用原料米の輸人取り扱い体制の整備や主食用輸入米への対応策について内部検討を始めたことが17日、全農の「部門横断プロジェクトについて」と題する内部文書で明らかとなった。全農は、加工用米輸入についての検討は「あくまでも全農内部でタブーを設けない自由な議論のテーマの一つ」(全農幹部)としているが、文書は原料米の「輸入取り扱い体制を整備する」と明記。主食用米に関しても「輸入米への対抗上、また新規参人上も武器となる」として、小袋包装による現行方式に代わる、大量輸送の「ばら流通システム」を構築する、としている。コメの集荷・販売をほぼ一手に握る全農が輸入米を自らの販売ルートに取り込もうという意欲を示した文書を作ったことは、コメの自由化論議に大きな影響を与えそうだ。
 内部文書は、コメの内外価恪差に対する不満が強いコメの加工・原材料業界に対し、現在の玄米中心の販売から、メーカーのニーズに対応した用途別の精米供給に転換する必要性を強調。
 主食用米についても「輸入米は、ぱら流通主体となる」との判断から、消費地にシステムの拠点をつくる必要がある、としている。
 全農が加工用米の輸入体制整備や主食用輪入米への対応策の検討を始めたのは、昨年11月から「21世紀に向けての新・全農への挑戦と改革運動」の一環。来年末までの約2年間の計画で組織や事業の見直しや将来の方向について検討を進めている。改革の検討に当たって、全農として初めてシンクタンクに調査研究を委託、ことし8月までには全農改革のシナリオをまとめる方針だ。
 加工用米の年間需要は440万トンでコメ全体の需要の約15%を占める。主食用に適さないくず米のほか、他用途利用米が充てられているが、他用途米は価格が安いため生産に消極的で生産量が不足。農水省は現在綱渡り的な需給操作を強いられている。

【解説】生き残りへ本音の議論

 全襲が加工用輸入米の取り扱い体制を含めた改革の検討に乗り出したのは、日本農業のさまざまな問題が深刻化する中で、農業団体として生き残る道をどう模索するかという課題が差し迫っているためだ。
 米を含めた農業政策全体に大きな影響を与える新多角的貿易交渉(ウルグアイ・ラウンド)は1986年6月の交渉開始以来間もなく丸7年。交渉長期化で農政の抜本的改革に手をつけられない一方で、農業の主要な担い手である「昭和ひとけた世代」の多くは60歳を超え、農業生産基盤はぜい弱化するばかり。
 農業就業人口が滅少し農業生産が落ち込むことは、全農や農協の経常基盤が揺らぐことを意味する。
 海外からは一層の市場開放の圧力、国内は農業生産基盤の弱体化という八方ふさがりの現状で、全農が「新ラウンドの先行きや食管制度の規制緩和などは前提としていない」としながらも、日本農業の将米を見据えて真剣に本音の議綸を始めたことは、これまでには見られなかった変革の芽といえる。

 全農内部文書の内容
 全農の内部文書のコメ事業に関する部分の内容は次の通り。
 【主食用うるち米の販売省力化と鮮度の提供】今後、卸は大型化し精米販売が主体になるが、その対応が課題。消費地にぱら流通拠点を設置し、産地施設と組み合わせ、精米販売卸のニーズに沿つたきめ細かな販売を行う。また、輸入米はぱら流通主体のため、ぱら流通システム構築は、輸入米対抗上また新規参人上も武器となる。【多様なニーズに対応する精米供給】加工・原材料業界に対し、加工拠点を設置し、現在の玄米中心の販売からコメの加工を行いメーカーニーズに対応した用途別の精米供給を行う。同時に、メーカーニーズに基づく産地づくり、他部門との連携による協力販売先の確保、経済連工場の技術情報のネットワーク化、輸入米取り扱い体制整を行う。