米国での深刻な自動車販売の不振を背景に、自動車をめぐる日米の新たな摩擦が拡大しようとしています。米国中央情報局(CIA)の委託で作成された「日本2000年」という報告書では日本人を「世界を見る目は経済への飽くなき欲望以外の何物でもない。そればかりか欧米の価値観を排斥し、自らの価値観を世界に押し着けようともくろんでいる」と辛辣に分析、少々オーバーではありますが、第二次太平洋戦争の可能性を指摘した「ザ・カミング・ウォー・ウィズ・ジャパン」(来るべき日本との戦争)といった本が人気を博しているなど、日米間の貿易問題は単なる経済問題だけでは捕らえられなくなるほど感情的なあつれきが高まっています。新たに派生しようとしている日米の自動車摩擦を中心に日米問題の深刻さを考えたいと思います。
 ダンピングと系列問題
 日本車批判での火つけ役は、日本から大量に輸出しているミニバンのダンピング(不当廉売)問題です。米政府はすでにダンピング調査の開始を決めています。続いて米国政府は日本での米国車販売が伸び悩んでいる理由のひとつとして、自動車販売の系列問題を話し合うよう提起しています。
 6月初め、ゼネラル・モーターズとフォード、クライスラーのビッグスリーの会長がそろってテレビ出演し、消費者に強い対日批判を訴えました。とくに対日強硬派で知られるアイアコッカ・クライスラー会長は、「米国で2万2000ドルのわが社のジープが日本では3万4000ドル。逆にトヨタのミニバンは日本で2万2000ドルなのに米国では1万5000ドルとまるで魔術。ダンピングがあるかぎりわめき続ける」と問題提起、大きな反響を巻き起こしています。
 日米の価格差は乗用車ではほとんどなくなっているのが現実ですが、残念ながらミニバンという分野では確かに存在しています。その点についての日本メーカーは日米での機種や装備の違いを指摘しています。「日本人ユーザーが装備の面で豪華なものを求めるため、日本での価格のほうが高くなるのは当然」といった見方もあります。もちろん比較時点での為替の変動による要因も大きく、価格の問題は単純ではありません。
 彼らの認識のなかでは、米国での日本メーカーのシェアが拡大することへの不満だけでなく、「なぜ日本市場で米国車が売れないのか」という疑問も起こります。ここ数年、欧州での米国車の販売が好調であるだけに、「品質もかつてとは比べることができないほど向上、欧州市揚でも評価されている」という自信に裏づけされているのです。
 そうなると日本で売れないのは。日本市場に外国車に対すろ排他的な商慣行があるからだと考えるのは自然です。しかし日本側からすれば、「ドイツ車への人気は高く、売れない米国車こそ日本の市場に対応した製品作りに欠けたところがある」のも事実でしょう。製品作りや販売努力を問われても仕方ない状況です。
 カナダ産日本車への課税
 ダンピングや系列問題に加えて、最近ではカナダで製造していろ日本メーカーの乗用車に対する課税の動きも出ています。本来、カナダと米国は米加自由貿易圈協定を結んでいますので、北米での50%の部品調達率をクリアしている製品は免税とされることになっているにもかかわらず、米国政府は課税を強行しようとしています。
 この問題は基本的には米国とカナダとの貿易開題なのですが、日本企業の国際展開が進んだ結果、日本メーカーの海外生産が貿易摩擦の矢面に立たされる可能性を示す典型的な事例ともなりそうなだけに無視するわけにはいきません。
 日米の自動車摩擦は歴史が長く、日本によるダンピング、輸出自主規制、米国での現地生産、部品の現地調達といったさまざまな問題を生み出してきました。しかし、その間、輸出台数そのものは減少してきていますが、現地生産の本格化などにより日本車のシェアは確実に増え続け、米国の自動車販売不振が続くなかでビッグスリーは日本メーカーにシェアを奪われ、ついに1991年第一四半期では経営が赤字に転落してしまいました。
 自動車産業ははすそ野の広い産業であるため、自動車業界の不振は米国経済を大きく揺るがす問題であることも認識しておく必要がありましょう。米国からの不満が発生、日本側が対応を繰り返すパターンだけではもう解決できるような収態ではなくなりそうな雲行きなのです。(共同通信・伴武澄)