台湾と海峡を挟んだ中国。福建省のアモイ市街地の対岸に建設中の新工業団地「海滄台商投資区」。海岸沿いに広がる農村地帯に何十台ものブルドーザーやダンプカーがうなりを上げている。中央の経済引き締め政策を無視するかのように改革開放路線が進められている。
 団地建設は「石油化学など装置産業を誘致する」(李長江・外商投資企業管理局副処長)のが狙い。ターゲットはもちろん台湾企業だ。
 外資導入が課題のアモイ市経済特区を支えているのは台湾企業だが、その台湾経済との関係も第二段階を迎えている。
 長栄海運、中国鋼鉄、大同グループなど台湾産業界のトップが昨年、相次いでアモイを訪れた。台湾当局は対中直接貿易・投資を依然解禁してないものの、台湾の大企業が非公式とはいえ大陸との直接接触を開始し始めたのだ。
 台湾企業の大陸進出問題については中国、台湾とも当局者の口は堅い。しかし、台湾プラスチックは70億ドルという巨大な投資規模のエチレンプラント建設構想をぶち上げ、大手繊維メーカー、東帝士によるインドネシア華僑財閥とのポリエステルプラント建設計画も順調に滑り出した。航空路の開設も水面下で話し合いが進んでいる。
 中国側にも靴、傘、縫製品といった労働集約産業から装置産業への誘致への転換、そして投資規模を飛躍的に拡大しようとする姿勢ははっきりと見届けることができる。
 87年秋の大陸訪問解禁後200万人もの台湾の中国人がアモイ市を訪れ、400件近い投資が承認され、台湾はアモイ市で押しも押されもせぬ「外国勢力のトップ」となった。だが、依然政治の壁もある。
 台湾当局は昨年10月、企業の中国に対する第三国経由の間接投資を3353品目に制限、認可制にした。これについて台湾のエコノミストは「基準がなかった投資に関して、軍事とハイテクを除いて認め、正式認知した」ものと説明する。しかし、中国側は「なぜ投資を制限するのか」。(アモイ大学台湾研究所)と反発。投資に統制を加え始めたと映り、しこりを残した。
 アモイは長年、3キロしか離れていない台湾領土の金門島と対峙(たいじ)する軍事上の前線基地だった。しかし、今では台湾との経済交流の最重要拠点となっている。中国側には、天安門事件以降西側各国の企業の投資意欲が減退する中で「台湾企業のおかげで、アモイ市だけが成長のベースダウンを免れた」(江平副市長)との認識がある。台湾にも「大陸とは相互補完の関係にある」(台湾経済部)という意識も深まっている。
 今後も直接貿易・投資の解禁などといった課題を残しているが、双方で直接対話の窓口の一本化も進んでいる。南シナ海経済圏の形成が中国と台湾との政治の壁を突き破る日はそう遠くない。(伴前共同特派員)