改正入管法が6月1日から施行された。高度で専門的知識を持つ外国人の日本での就労の道を開く一方で、単純労働者の就労に対する規制を厳しく規制した内容だが、事前に改正内容が徹底していなかったことから、「逮捕までされるのならば、日本にとどまるわけにはいかない」などと駆け込み帰国を申請する不法就労者が各地の入国管理事務所に殺到する混乱ぶりとなった。
 また、人手不足に悩む中小零細企業のなかには「例え不法であっても外国人にやめられたら事業の継続が不能になる」といった不安の声も多く出ている。外国人による不法就労者の数は10万人とも30万人ともいわれ、既に国内産業に労働力として組み込まれているのが実情で、単に取締りを強化するだけで問題が解決するとはいえない。中小企業を多く抱える経済団体からは単純労働者を海外から受け入れるシステムを早急に考えるべきだとの提言も相次いでおり、政府としても新たな外国人対策を迫られることになりそうだ。

 処罰強化は雇い主が対象
 今回の入管法の改正のポイントは①外国人に入国時に与える在留資格を18種類から28種類に拡大、弁護士や医師、国際業務ビジネスマンら特殊技術や専門知識を持つ者の国内での就労を簡素化する②不法就労の雇用主やブローカーに対し「不法就労助長罪」を新設、3年以下の懲役または200万円以下の罰金を課すことになった③ただし適用するのは6月1日以降に入国した外国人を不法に就労させた場合であって、それ以前から就労させている場合は適用されない―ことなど。
 在留資格に関して法務省の省令で細かく規定しており、たとえば「投資・経営」「医療」「研究」「教育」などの活動については「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること」が条件。また、通訳や服装デザイナーらが対象となる「人文知識・国際業務」という在留資格では「月額25万円以上の報酬」などと規定している。
 しかし、何をもって「特殊技術」「専門知識」というのかという本質的な部分については明確な規定がないため、「タイル工や鋳物工は熟練工とはいえないのか」といった疑問がでるなど早くも混乱が起きている。

 7割が違法を承知で外国人雇用
 労働省の外郭大体である中小企業経営者災害補償事業団(KSD)が5月末にまとめた首都圏の中小零細企業を対象とした「外国人労働実態アンケート調査」によると、回答を寄せた約2200社のうち、既に7社に1社が外国人を雇用しており、「その約7割が違法であることを承知の上で雇っている」という外国人不法就労の生々しい実態が明らかになった。
 外国人を雇用している企業は全体の13.9%の308社で、業種別では飲食業が28.7%と一番率が高く、。ついで製造・加工業の17.8%。パチンコ、旅館などのサービス業も13.9%、建設業12.2%だった。
 雇用している外国人の在留資格で一番多かったのが「学生」。いずれも週20時間以上働いているケースで、「学生」の場合週20時間程度のアルバイトは認められているがそれ以上となると「不法就労」になってしまう。
 「今後、外国人を雇いたいか」という質問に対しては31.3%が「雇いたい」としており、その理由としては「日本人の確保が難しいから」(84.1%)が「低賃金で雇える」(20.3%)を大幅に上回り、求人難が逼迫している最近の労働市場の状況を浮き彫りにしている。
 外国人の不法就労は当初はバーやキャバレーなどで働くホステスなどが主流だったが、88年からは男女の比率が逆転、出身地もフィリピンなどからパキスタン、バングラデシュなど多様化しているのが現状だ。
 男性が増えたのはまさに景気拡大が長期化するなかで人手不足が深刻化したためだが、特に「きたない」「きつい」「危険」の3K職種の代表といわれるメッキ、鋳物、金属プレスなどの業界では、人手不足は個々の企業の努力では対応しきず、いまや外国人の労働力なくしては事業の継続すら難しくなっている。
 「外国人の労働力は安い」といった時代はとっくの昔に終わっている。かつて横行した外国人の弱みに付け込むブローカーもなくなったわけではないが、外国人が独自の求人情報ルートを持ち始めており、少しでも賃金の高いところへ転職するといった事態も日常茶飯事だ。
 人手不足問題を抱える中小企業団体のなかには、不法就労に対する入管当局の厳しい姿勢を受けてなんとか法律の許す範囲内で外国人労働者を受け入れようとする動きも活発化している。
 太田市や館林市など群馬県東部では企業主らが中心となって「東毛地区雇用安定促進協議会」を設立して。就労ビザが緩やかなブラジルから日系人を受け入れる計画を立てている。企業の人事担当者を同国に派遣、年内に300人程度の受け入れを目指している。地元の行政も協力的で、企業団体が外国人雇用の受皿になれば悪質ブローカーが幅をきかすことも少なくなるというわけだ。
 全国の中小縫製会社で組楸ずる日本縫製品工業協同組合も「海外日系人雇用対策委員会」を設置、近くブラジルとペルーに調査団を派遣し、日系人の就職希望状況を調べる予定だ。
 特にブラジルは20万人ともいう二重国籍の日系人がおり、累積債務対策による不況で失業率が高く、日本の中小企業からみると「労働力の宝庫」に映るようだ。しかし、日系人の雇用は法律の盲点をついたともいえ、日本の人手不足を根本から解決するものではない。こうした行動が目立つようになれば「日本はあまりにも純爾主義的」などと国際的批判も招くことになりそうだ。
 今回の改正で受け入れの範囲が広がった「研修」制度を利用しようとする動きもある。川口鋳物工業協同組合は7年前から傘下の中小企業グループで中国からの研修生受け入れを実施している。「鋳物業は決して単純労働でないから研修生が技術を取得しながら、実際に労働力としても寄与する制度があってもよい」という考え方だ。
 通産省もこうした考え方に近い立場をとっており。産業労働問題懇談会は「相手国に現地法人を持たない中小企業でも研修生受け入れを可能にするなど、民間企業の研修制度を大幅に拡大して研修生の受け入れ規模を現在のほぼ倍の5万人程度まで増やすべきだ」といった内容の提言を発表している。

 相次ぐ労働市場開放提言
 中小企業を多く抱える経済団体でも外国人への労働市場開放を求める提言も相次いでいる。
 火付け役は東京商工会議所で、1988年初めから内外で進めていた実態調査を基に89年末に「外国人労働者熟練形成制度」の創設を提言した。「訓練」という形態だが、二国間協定を結んで、人数、労働条件。訓練方法など一定の条件を定めて合法的に外国人就労を認めさせるもの。
 一方、入管法に新たに「一般労働」という在留資格を新設して単純労働にも全面的に門戸を開放するよう求めているのが大阪商工会議所。既に在留している不法就労者に対しても期限を限って特別在留資格の付与を求めている。大商は「構造的な労働者不足に悩む会員の切実な声を反映させた」と説明している。
 こうした民間や地方の外国人への労働開放を求める声に対する政府の動きは緩慢だ。
 労働省はかつて外国人労働者の受け入れ体制を整備する「雇用許可制度」の導入を狙ったが、法務省の「単純労働者受け入れ拒否」の強い姿勢の前に途中で法整備を断念した経緯がある。
 塚原労働相は最近の国会答弁で、「学識経験者による研究会を作り、外国人労働導入のメリット、デメリットを改めて勉強したい」と述べており、いずれ「労働許可制度」導入を持ち出す考えだが、「人管法が改正したばかりの時期になかなか持ち出せるものではない」と今のところ慎重な姿勢を崩していない。外国人労働間題は議論は途についたばかりといえそうだ。