2006年8月19日付けの原稿。どこかの雑誌に投稿したもののようであるが、どこか分からない。円安で対応を苦慮している今でも十分通用する論文であろう。18年前にこれを書いていたのだ。

 景気回復を背景にそろそろ金利が上昇するのではないかという観測が浮上している。福井俊彦日銀総裁はすでに「消費者物価指数がプラスに転じたら量的緩和策を解除したい」と表明しているが、これに対して財務省は「時期が早い」と牽制する。
 日本の超低金利政策はかれこれ10年続いてきた。そもそもは破たんした金融システムを救済するのが目的だったが、そのうち景気そのものが上昇のきっかけをつかめず景気対策としての超低金利となった。
 それだけだったら景気回復に伴って機動的に金利を上げればいい。ところがこの間、景気対策として国債の大量発行が常となり、いつの間にか財政のために超低金利を維持せざるを得ないという袋小路に陥った。
 日本の不幸はまさにこの一点にあるといっていい。日銀と財務省の量的緩和を巡る確執もここにある。
 金利引き下げは企業に設備投資を促すことを目的としている。しかしこの10年、お金の借り手がいなかった。大手企業は過去の借金体質を改善するのに汲々としていたし、金を借りたがった中小企業に銀行は金を貸さなかった。金利低下によって企業の資金需要は増すどころか逆に減少していたのだった。
 ゼロ金利プラス量的緩和でじゃぶじゃぶになったはずの資金はどうなったかというとその多くが国債消化を底支えした。大量に発行される国債は金利上昇の心配なしに市場を通じてどんどんと日銀の金庫に吸い込まれていったのだからたまらない。超金融緩和の最大の受益者は実は財務省だったのである。
 財務省が金利上昇につながる量的緩和解除に反対するのはそれなりの理由がある。700兆円の国債金利が1%上がると単純計算で7兆円の財政負担となる。5%ともなれば35兆円。40数兆円しかない税収の8割が国債の利払いで消えたのでは財政は完全に破たんする。
 しかし、金利が上がると財政は本当に困るのだろうか。1400兆円といわれる個人資産のすべてが預貯金ではないが、5%で70兆円の金利を生む。その20%の14兆円が源泉徴収税として国庫に入る。差し引き56兆円の経済効果も生半可でない。なにしろ日本のGDPは500兆円。そこに50兆円規模の循環する消費が加わったらどうなるか。それにまた消費税もかかるから財政にとってそれこそ大きな福音となる。これは単なる夢物語だろうか。
 伴 武澄 高知市生まれ。東京外大卒。1977年、共同通信社に入り主に経済畑を担当。著書『日本がアジアで敗れる日』など。98年から萬晩報http://www.yorozubp.com/を主宰。現在、共同通信津支局長