元気がでる高齢化社会
執筆者:中野 有【とっとり総研主任研究員】
山陰地方は、高齢化の割合から見ると高齢者先進地域である。日本の平均寿命は世界一であり、国内でも山陰地方の人口に占める高齢者の割合が高い。これは世界から見ると、山陰地方には老人パワーなる妙薬や高齢者を惹き付ける魅力があると映るだろう。山陰地方は、高齢化社会に関し世界から一目おかれた立場であるという逆発想が成り立つのではないだろうか。
日本では高齢化社会というと、何か人生の黄昏を加速させるような暗いイメージがつきまとう。しかし、考え方によっては職場等の社会的制約から解放され、人生を思う存分エンジョイできる人生の黄金期ではないだろうか。高齢化新人類なる粋な老人の登場が期待される。ウイーンとホノルルで学んだ楽しい老後の過ごし方の一端に触れてみたい。
ウイーンの国際機関のドイツ人の上司が定年した時の満足感あふれる笑顔は忘れられない。定年後に人生のピークが到来するように設計された彼の仕事納めには、夏休みを待つ子供のような純粋な躍動感がみなぎっていた。ヨーロッパの人間は充実したホリデーの過ごし方に熟知している。例えば、国連機関の場合、毎年4-6週間の休暇を取る。長期休暇は、定年後の予行演習のようなものである。また、それは健康、文化、教養の充電の一翼を担っており、人生のダイナミズムを高揚させるのに役立っている。
一方、日本の休暇は、せいぜい1週間の海外旅行が限度である。それ故、定年後、何をしたらよいのか分からなくなってしまうようだ。日本は、ヨーロッパ型のバカンスを推進すべきだ。そうすることによって休暇の延長線上としての夢のある定年後の設計を描くことが可能となるだろう。また、長期休暇が経済的競争力を弱めるのではなく、新たなサービス産業の創造に寄与すると考えられる。
人生の醍醐味は、世界中に友人の輪を広げ、人生の友とのネットワークを構築することである。国連の仕事を通じ世界各国の親友を持つことができた。その中でも、ドイツ、スウェーデン、フランス、スイスの友は格別だ。彼らとこんな約束をした。定年した時、家を数カ月ごとに交換するというものである。
老後は芸術・文化にどっぷり浸かろうと考え、音楽の都ウイーンにアパートを購入した。ウイーンは人気のある地で、友人が集まってくる。友人と一緒に過ごし、家の鍵を交換すれば経済的負担を最小限に世界を旅しながら友人と人生の醍醐味を味あうことができる。そう考えると、定年後、新たな夢が開花するようだ。
先日、ハワイに1カ月滞在し、ゴルフを通じハワイの高齢者のコミュニティーに接した。ハワイの高齢者は、日本でゲートボールを行うような感覚でゴルフを楽しんでいた。ハワイのパブリックコースでは約500円でプレーが可能である。18ホール回れば6-7km歩いたことになる。歩くことは健康に良い。ハワイ州から見れば、ゴルフを通じ医療にかかるコストを最小限に抑えることになる。
日本の高齢者は通院し薬漬けになっている人が多いと思われる。日本が学ばなければいけないのは、ゴルフ等を通じ健康維持ができる予防医療だと思う。将来、ハワイのように安くプレーできるパブリックコースが鳥取にできないだろうか。そうすれば、温泉とゴルフのセットで粋な高齢者が鳥取に集まって来ると思われる。
ホノルルにボーダーズという本屋がある。本屋の中に喫茶店があり新刊の本を自由にゆったりと読むことができる。また、ミニコンサートも開催される。本屋が心地よいコミュニティー形成の場となっている。ゴルフのみならず読書による適度なアカデミックな刺激が精神衛生上良い。
このように、ウイーンやホノルルでは高齢者に元気を与える環境が整っている。花鳥風月のある鳥取にて、欧米をも惹き付ける魅力ある環境を生み出すための知恵が期待されている。山陰地方は、世界に自慢できる高齢者の先進地域であるのだから。(なかの・たもつ)
中野さんにメールはnakanot@tottori-torc.or.jp