執筆者:浅尾 慶一郎【参議院議員】

高齢化社会の問題は先進国共通の課題です。一昨日、この問題でピーター・G・ピーターソンさん(元米国商務長官、ニューヨーク連邦準備銀行副理事長、現ブラックストーングループ会長)の話を聞く機会に恵まれました。データに基づく非常に示唆に富む話でしたので、多少長くなりますが、以下にご紹介します。

今、世界の人口構成は二極化の動きを示している。先進国は押し並べて人口が減少し、高齢化が進む傾向にある。これに対して発展途上国は先進国より出生率が遥かに高いので、高齢化は進まない。結果として、1950年と2050年で世界の人口の最も多い12カ国を比較すると、1950年には12カ国中、5カ国が先進国、7カ国が発展途上国であったのに対し、2050年には唯一米国のみがこのリストに入り、残りの11カ国は発展途上国となってしまいます。

米国が人口を維持出来るのは、出生率が他の先進国より高く1.9%を維持し、しかも移民を受け入れているからです。

人口高齢化に伴う問題の中で、比率的に増えているのは85歳以上の超高齢者である。(一般に65歳以上の方を高齢者という。85歳以上の方を超高齢者と日本語で言うのが正しいかどうかは知りませんが、彼はold-oldと言っていた)米国では次の50年間で85歳以上の方が6倍に増えるという。そして、米国ではこの超高齢者一人に係る医療費はその他の高齢者の2.5倍に達するそうである。

人口構成の高齢化のもたらす問題は年金と医療費の問題につきる。年金だけ見ても先進7カ国全体で、財源の手当のされていない債務が35兆ドルあります。(ご案内の通り、殆どの国で年金は、多かれ少なかれ、現在の加入者が支払った年金資金を受給者に渡す形が取られており、支払った資金が将来の受給の為に運用されてはいません。)これに、将来発生するであろう医療費を加えると財源の手当がなされていない債務が70兆ドルになります。

これだけ巨額の資金をすべて借金で賄うことは不可能ですが、少しでもお金を調達しようと先進国間で借金競争が始まるかもしれません。但し、いずれにしても年金と医療費の問題は各国で改革の必要な分野であることは間違いありません。解決策は以下の5点、あるいはその組み合わせの中にしかありません。

徐々に定年を引き上げる

労働人口を増やす(女性や移民を労働力としてより活用)

子供の数を増やす

年金や医療費の額を減額(自己負担分を増額)する

貯蓄率を高める(個人の貯蓄率上昇、政府の借金の減額)

定年の引き上げについては、面白い発言をしておりました。平均寿命の延びに応じて、定年の年齢をインデックス化してはどうかということです。つまり、30年前の60歳と今の60歳では違うと思われるから、平均年齢が伸びれば、比例して、定年も引き上げてはという提言でした。

労働人口の増加政策は日本においても、真剣に検討すべきことかもしれません。米国経済が好調な理由の一つは、自由で誰にでも可能性を与える社会の雰囲気に引かれて、優秀な技術者も含めて世界中から移民労働力を引き付けている点にあります。日本は、基本的には単一民族による意志疎通のしやすさをベースに発展をして参った訳ですが、世界に門戸を開いて世界中から英知を集めることも研究すべきかもしれません。

政策のみで子供の数を増やそうとするのは難しいかもしれません。スェーデンが出生率の引き上げに成功しましたが、これは同国の政策とともに、家事全般に渡って男女が共同して行うという社会的な風潮(国民性)にもよるところが大です。年金や医療費の政府負担額の減額は非常に大きな抵抗が予想されます。もちろん他に対策がなければ致し方がありませんが。

貯蓄率の上昇或いは政府の無駄使いを無くすことは重要でしょう。さて、こうしてみると政策の選択肢としては上記の1、2、3、5を組み合わせて極力負担増を避ける努力をすることだと思いますが、それぞれに問題を抱えているので簡単ではありません。まず、大切なのは、多くの方にこの問題について問題意識を持ってもらうことだと考えます。

参議院議員 浅尾慶一郎氏が主宰する「あさお慶一郎国政レポート」1999年7月1日付「世界的な高齢化の流れ-次なる競争?」から転載しました。

浅尾慶一郎氏のホームページはhttp://island.qqq.or.jp/hp/kei_ASAO/

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