日本のターニングポイントと北東アジア問題
執筆者:中野 有【ブルッキングス研究所客員研究員】
10月の後半の一週間を日本で過ごしワシントンに帰ってきた。日本の素晴らしさにはいつもと同様に感銘を受けるも今回ほど日本に大きな変革が必要と感じたことはない。
本日(11月3日)のニューヨークタイムズにそれに関連する記事を見つけた。日本の大きな変化はこの150年間、偶然にも50年毎に発生している。例えば1854年のペリーの黒船により維新に目覚め、1904年には日露戦争でバルティック艦隊を破り、半世紀後には戦後復興から驚異的な経済成長に向けたスタートをきった。そして50年後の今日、日本は不況と閉塞感にあえぎ「構造改革」という痛みに耐えられるかどうかの瀬戸際に追い込まれている。1997年の東アジアの経済危機の教訓が覚めやらぬ、グローバル経済の熱戦の敗者になりかねぬことが予想される。
日本は多民族国家でないゆえに振り子のように極端から極端に振れる場合が多い。この20年間、米国から見た日本は、「ジャパンバッシング、ジャパンパッシング、ジャパンナッシング、ジャパンプッシング」として変化してきた。そしてこれからは、「ジャパンメインテナンス」そしてさらに加速し下手をすれば「ジャパンハイジャック」が起こる可能性がある。
これらが世界が鳥瞰する現在の日本の世相であるとすると、半世紀毎に日本はターニングポイントをうまく乗り切ってきたように大きな発想の転換が不可欠である。
今回、日本に短期間滞在しただけで何か洗脳されたような気がしてならない。どのテレビも北朝鮮の拉致の問題ばかりを伝えている。勿論、拉致問題は避けて通れないが日本の論理と感情的な側面だけで貫いても戦略的に何を得られるか疑問に思えて仕方がない。北朝鮮は洗脳されている国である。しかし日本のマスコミが伝える報道も非常に偏っていることは確かである。日本の多くのマスコミは、2年半近く前の「南北首脳対談」で金総書記が国際舞台に登場するまで金総書記は、言葉も発することができない人物であると伝えてきた。また、マスコミが伝える飢餓に苦しむ北朝鮮の姿だけを見ていたら、北朝鮮全体が瀕死の飢餓に陥っており拉致された日本の人々との生活との落差が理解できない。
ここで重要なことは、マスコミが伝える北朝鮮情報は大局的な視点が欠けているということである。従って北朝鮮問題のみならず今の日本に必要とされることは、自分で考えると同時に構想を練り、それに磨きをかけるために多角的な視点で学び、そしてそれを実行することではないだろうか。ブルッキングス研究所に入ったとき「Think,Learn,Lead」の3つを実行するのがブルッキングスの目的だと教えられた。複雑なことをシンプルに考えることが重要と思われてならない。
北朝鮮問題を以下の視点でシンプルに考え、学び、そして明確なビジョンを示したい。
1.日朝間にはあまりにも大きな経済格差が存在しており、同じレベルで考えるのでなく富める国は包容力を持って北朝鮮を考えなければいけない。
2.北朝鮮は「ならず者国家」であっても2200万の国民に罪はない。
3.過去、現在、未来の流れの中で北朝鮮との協調を考える。
4.北朝鮮は追い詰められており「戦争と平和」が紙一重である。朝鮮半島の38度線は技術的には戦争状態である。
5.北朝鮮との共通の利益の合致点を探す。それは、北朝鮮の大量破壊兵器の開発の放棄並びに国際社会へ入る条件を北朝鮮自ら構築することと、北朝鮮への社会資本整備のための経済協力を実現させることである。
日本と北朝鮮との間には信頼関係がないゆえに両者好戦的になるのは当たり前である。8年前の朝鮮半島での一発触発の危機とは異なり、北朝鮮を取り巻く韓、日、中、ロそして米国は、北朝鮮の核開発を断念させることで少しの温度差はあるものの一致している。これらの国々とEUは、北朝鮮との交渉を行うにあたり大量破壊兵器を含む一切の問題に関し妥協なき強いスタンスで臨むと同時に、北朝鮮が国際社会に入ったときの明確な北朝鮮の発展のためのグランドデザインを提示することが重要である。短期間であるにせよ、すべての国々が北朝鮮への経済制裁を徹底させる時期に来ているように思われてならない。KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)のような妥協的な枠組み合意でなく、中国やロシアを含む包括的な多国間協力の構築が可能であると考えられる。なぜなら北朝鮮が北東アジアの発展のための建設的な国家になれば北東アジアの経済圏が構築され、3万7000の米軍の撤退につながるからである。
21世紀初頭の日本のターニングポイントは、北朝鮮問題を通じ外交、安全保障が強化され、北東アジア経済圏構築により自然発生的経済圏における日本の技術と資金が効率的に機能し日本経済が蘇るのみならず北東アジアの発展につながることであると信じたい。拉致問題並にこのような大局的な発想が語られそれが戦略的に練られることにより日本の潜在力と活力が生きてくるのではないだろうか。
中野さんにメールは E-mail:TNAKANO@BROOKINGS.EDU