執筆者:岩間 孝夫【萬晩報通信員(中国寧波市)】

21世紀の幕開けである2001年1月1日付け萬晩報で、私は21世紀を迎えるにあたり次のように書きました。

「過ぎ去りし20世紀に思いを起こし、そして新たなる世紀に思いをはせる時、つくづく、世の中は変わるものだと思うと同時に先のことはわからないと思う。

その中で敢えて21世紀のキーワードを求めるならば「調和」だと思う。

国と国、民族と民族、異なる宗教間、異なる世代間、人類と自然、機械文明と精神文明等々。調和なくして人類はこの地球という住まいの運営を図ることは出来ないだろう」

アメリカ・ブッシュ政権がイラクを攻撃するかどうかに世界の注目が集まる中、私は今一度今世紀の地球に最も必要なものは調和の精神であることを強調したいと思います。調和とは、当然平定ではなく統治でもありません。夫々が自己の領域や特性を充分に謳い、その上で他者の存在を同等に認め平衡感覚を失わずに共存することです。

アメリカ人の好きなものは「ママと星条旗とアップルパイ」と昔から言われますが、このような惹句により「星条旗に代表される強き我が祖国」を強く感じさせアイデンティティーを確立しなければ、多くの移民で構成される社会は結束力を持たず、「世界の盟主」になることなど思いもよらぬことだったでしょう。アメリカの歴代大統領が平易な英語でテレビスピーチを行い国民に語りかけるのも複合民族国家に結束をもたらすためのひとつのメソッドでした。

しかし戦争の世紀とも言われた20世紀の終盤、米ソ2強体制がソ連の崩壊に伴い1強体制になって以来、アメリカはその圧倒的な軍事力で世界を覇道により支配し君臨するところにレーゾンデートルを求めるようになり、ママとアップルパイが大好きで底抜けに明るくお人良しなアメリカが、すごむアメリカごねるアメリカに変わりつつあります。

アメリカはあたかも自国が自他ともに認める世界の警察官であるかの如く振舞いますが、自分の気に入らない他者の存在を何が何でも認めないという姿勢は単なる驕りに過ぎませんし、その姿勢や指向の行く末に調和はありえず、調和なくして地球上の人類の平和な共存の営みはありえません。

私は、「調和のためには牙をむくな」と主張するわけではありません。人の社会では時には体を張って喧嘩をせねばならぬ時もありますし、国家としてやむを得ずせねばならぬ戦争も時にはあると考えます。力なき正義はむなしいということも充分知っています。ただ、必然性の認められない攻撃と流血の末には調和はおろか、人心の平静さえ実現し難いと思うのです。

世の中は変わるもの移ろいやすいものです。かつて人類史上において、武力を背景に他国を圧し版図がその当時の地球文明世界の大半にまで広がった2つの大国、7世紀のサラセン帝国と13世紀のモンゴルでさえ、アジアからヨーロッパにまたがる大勢力圏を作り上げはしましたが、その覇権は100年以上続くことはありませんでした。

まして当時より時の流れや社会の変化がはるかに早く進む現代において、一国による世界の覇道支配が当時より長く続くはずがありません。世界の覇権というアップルパイはいかに好物であっても長期間の独り占めはできないのです。

(ちなみに今回のアメリカによるイラクへの攻撃は、世界の超大国が服従せぬ中小国に対し圧倒的な武力を背景に攻めこもうとする点において、13世紀におけるモンゴルの日本襲来に似ています。違いはその進行が世界中に同時生中継されるかどうかだけでしょう)

また今回、はやるアメリカの武力行使に対し、武力行使容認でアメリカを支持するイギリスやイタリアと平和解決を求めるドイツやフランスのEU内における対立がしきりに報道されていますが、「きしむ同盟」とか「独仏と英が分裂」等という短絡的な見出しや記事にミスリードされ大きな流れの方向を見失ってはならないと思います。

アメリカの1強支配体制が始まった1990年台初頭、EUは85年の統合白書発表以来まだなおその統合に向けて調整のための議論が百出し、日本のマスコミでは果たしてうまく船出できるのか疑問視する悲観的な論調も多々ありました。

EUはそうこうしながらも91年にはマーストリヒト条約で設立が合意され93年に市場統合が始まり、その後も加盟国間の言語やさまざまな社会制度、政治体制や経済情勢の違いを乗り越えて統合を進め、昨年は共通通貨ユーロの発行にまで至りました。

個人でさえも何人か集まれば立場や利害や思想の違いにより意見や考え方は分かれるものですし、それがましていくつかの国家が集まれば時に意見の不一致があるのはもっと当たり前のことだと思います。

私は、EUの構想開始からこれまでに至る過程において、多くの問題や障害や状況の変化に突き当たりながらもその都度粘り強く話し合いながら一歩づつハードルをクリアーしながら前進して来たことを高く評価すべきであると思いますし、時には自らの不利も受け入れながら、時には小異を捨てて大同につき、より高い理念の実現を目指して取り組んで来た姿勢に世界調和の良き手本を見出したいと思います。

もし今後近い将来、加盟を希望しているトルコの参加が認められる時、その意義は更に深まるでしょう。トルコはイスラム教国であり歴史的に長くヨーロッパに敵対し脅威となっていたのです。敢えて言うならばその一瞬は、世界の中心がアメリカから再びヨーロッパに移る一瞬となるでしょう。

世界最大の債務国であるアメリカが世界最強国として君臨出来るのは、その軍事力と並び、今のところ米ドルにとって代われる世界通貨が無いためですが、今後ユーロが安定した力をつけ米ドルにとって代われる時が来れば完全に世界の流れは変わるに違いありません。

21世紀の世界のリーダーに求められるのは武力による覇道のリーダーシップではなく、ここまでのEUに見られる如く、価値観やスタンダードや状況の違いに対し一方的に自らに都合の良いことを相手に押し付けるのではなく、相互理解を図りながら根気よく調整しつつその理念を実現するリーダーシップです。

かつてゲーテが言ったように、人類と他のあらゆる動物を区別するものは理性です。ブッシュにもフセインにも、理性的であれ、と言いたいと思います。一神教は諸悪の根源などと言われぬためにも。

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