最後の砦トヨタが挑め、世界カイゼン(1)
執筆者:園田 義明【萬晩報通信員】
■応えてくれないロボット犬
10月28日、日本を含むアジア・オーストラリア6カ国歴訪を終えたブッシュ大統領は記者会見を行う。この中で記者団からのイラク戦後政策の質問に対して、「日本を訪れ、小泉首相との関係が極めて緊密で個人的な付き合いだと実感した」と語り、「もし第二次大戦後、平和を勝ち取らなければ、何が起こっていたかとふと考えた。ミスター・コイズミと同じような関係を持ち得ただろうか、こんなに緊密に協力できただろうか。」と自問自答し、親友と呼び合う二人の関係を強調しつつ、イラク復興と民主化の重要性を力説した。
ミスター・コイズミがブッシュ大統領の来日時に用意したお土産は2004年分として15億ドル(約1650億円)の無償援助を柱とするイラク復興資金支援策と年内中のイラクへの自衛隊派遣、そしてトミー製の対象年令6歳以上のロボット犬「dog.com」(希望小売価格?税別:¥14、800?予定)である。
米ニューズウィーク紙によると、東京からマニラに向かう大統領専用機内で早速大統領とスタッフが「dog.com」君を飼いならそうとしたところ、何も応えてくれなかった。トミーによると「dog.com」は『話しかけたり撫でたりすると、かわいく動きながらおしゃべりするロボット犬。最初は「ワンワン」と鳴くだけだが、接しているうちに人間の言葉でしゃべるようになる。』とのことである。しかし残念ながらこのロボット犬は日本語だけに反応するようだ。
ソニーのアイボなら英語音声対応もあるはずだが、敢えて「dog.com」を選んだのは、イラク復興資金の為の節約なのか、ミスター・コイズミの本心の表れなのか、それとも憧れだろうか。ブッシュ大統領の指示に応えてくれない「dog.com」君は、ドイツやフランス、あるいはイラクで大ブームを巻き起こすかもしれない。
■もうひとつの特別なお土産
ブッシュ大統領が日本に到着したのは10月17日午後、日本には17時間半滞在し18日午前に大統領専用機で次の訪問国マニラへ飛び立った。実は17時間半の間に、もうひとつ特別なお土産が用意されていたのである。日本時間で10月18日午前2時、現地時間で10月17日午前11時、ブッシュ大統領の地元テキサス州のサンアントニオ市で、トヨタ自動車の米国における新車両生産拠点「トヨタ・モーター・マニュファクチャリング・テキサス(TMMTX)」の鍬入れ式を約800万平方メートルの工場建設用地で行った。地元テキサスのメディアも一斉に報じ、歓迎ムード一色に包まれていた。
鍬入れ式では、トヨタの豊田章一郎取締役名誉会長、田島英彦TMMTX社長他現地事業体関係者らが、来賓のリック・ペリー州知事とともにテキサス州にTMMTXが根ざすことの象徴として記念植樹を行い、トヨタは更にサンアントニオ市の経済・教育・医療などの発展のために活動を行っている5つのNPO団体にそれぞれ10万ドル合計50万ドルを寄付すると発表した。
トヨタの北米六番目の車両生産拠点となるTMMTXへの投資額は八億ドル(約880億円)に上り、生産能力は年間15万台程度、大型ピックアップ「タンドラ」の生産を2006年から開始する。
幌馬車のイメージも重なって、開拓の歴史から始まる米国では重い荷物も引っ張りながら広大な国土を豪快に走れるピックアップトラックは、南部、中西部一帯の保守的な地域では人気が高い。TMMTXから南部から中西部への供給を一気に強化する狙いがある。
映画「ターミネーター3」でアーノルド・シュワルツェネッガーが「タンドラ」を荒々しく乗り回したが、これも共和党への歩み寄りをもアピールしたのである。
TMMTXは約2000名の新規現地雇用を予定しているが、トヨタは海外の車両生産工場で部品メーカーを工場敷地内に結集させるサテライト工場化を進めており、2004年12月にメキシコ工場(TMMBC)での導入に続き、TMMTXでの実施も決定しており、新工場の敷地内には部品メーカー十数社が進出する予定となっている。従って、部品メーカーだけで最大1000人程度の雇用が生じることになる。田島TMMTX社長は部品メーカーも含め3000人近い雇用を創出する考えも明らかにしている。
トヨタはレクサスなどの高級車販売が好調な北米で連結営業利益の7割に当たる約1兆円の利益を稼ぎ出している。また、米国は将来的にも先進国の中で唯一人口が増え続けている重要な市場である。今年8月には、米国の販売台数で、ダイムラー・クライスラーのクライスラー部門を追い抜き、米ビッグスリーの一角を崩したトヨタは、2004年の大統領選を睨んで、貿易摩擦や日本車脅威論の再燃を抑える必要がある。そのために「良き米国市民」の証としてブッシュ大統領の地元テキサスを選んだのである。
開拓の歴史を象徴してきたブランドにジーンズで有名な「リーバイス」がある。製造元であるリーバイ・ストラウスは、今年9月25日、北米で運営する5工場をすべて閉鎖し、従業員約2000人を解雇すると発表した。縫製と製品の仕上げ工程を行うサンアントニオの2工場も含まれており、年末までの閉鎖に伴い約800人を解雇することになる。また、4月にはソニーも米国法人傘下でアナログ半導体を生産しているサンアントニオ工場の9月末までの閉鎖と従業員600名の解雇を発表した。
雇用環境の悪化が次々と伝えられる中で、トヨタによるテキサスでの3000名の雇用創出は、ブッシュ大統領訪日の最大のお土産となったはずである。また英語がわかるソニーのアイボが選ばれなかった理由もこのあたりが影響しているのかもしれない。
■「三河モンロー主義」からの脱皮
トヨタとブッシュ共和党政権との共通点をあげるとすれば、モンロー主義(孤立主義政策)かもしれない。60年代には「財界活動はご法度」を家訓としたトヨタは、長きにわたって自社グループの業績だけに固執する巨大田舎企業と揶揄され、政財官との接触を極端に嫌い、その閉鎖性から「三河モンロー主義」と言われ続けた歴史がある。
このトヨタの「三河モンロー主義」を変えたのが「自動車業界の政治部長」の異名で呼ばれた初代・木村清元専務と二代目・上坂凱勇元副社長である。木村元専務は1970年に旧トヨタ自動車工業の東京支社総務部長に就いて以来、20年間にわたり政官財界への渉外業務一筋に、幅広い人脈を築いた。
トヨタが本気で政官財界との関係強化に乗り出したのは、豊田英二最高顧問(当時)が経団連副会長に就任した1984年前後であり、その後、国内では消費税導入問題や消費税導入に伴う物品税廃止問題、低公害車への優遇税制、燃料電池車普及政府支援などを手掛け、国外問題ではでは欧米との貿易摩擦問題に取り組んできた。二人はトヨタのみならず、自動車業界全体の渉外担当として税制改革や通商問題で腕を振るった
1994年に豊田章一郎トヨタ会長(当時)が経団連会長に就任、1998年には現在の奥田碩トヨタ会長が日経連会長となり、2002年5月の経団連と日経連が統合によって、奥田日本経団連初代会長と豊田章一郎日本経団連名誉会長の誕生となる。長引く景気低迷の中にあって「最後の砦」としてトヨタが財界トップに担ぎ出されることになった。
奥田日本経団会長を支えるのは木村清元専務と上坂凱勇元副社長が所属した渉外部であり、60?70人規模のスタッフが「霞が関対策機関」として提言を取りまとめている。
今年9月に公表された2002年政治資金収支報告書では、トヨタは企業部門で6440万円を自民党の政治資金団体「国民政治協会」に献金しており、2位の本田技研工業(3100万円)を大きく引き離している。2002年は大型選挙がなかったため、政党や政治資金団体への企業・団体献金の総額は前年比2割減の約37億円(過去最低)となる中で、トヨタの安定感が際立っている。
しかし、トヨタの政治献金額はこの十数年6500万前後で変わっておらず、トヨタが順位を上げたのは、それまで自民党を支えた金融機関やゼネコンが業績低迷や相次ぐ不祥事により脱落していった理由に過ぎない。(つづく)
▼資料 <2002年政治資金収支報告書> 出所:読売新聞
◇年間2000万円を超える献金をした企業・団体(単位・万円)
●業界団体自民党民主自由保守合計日本自動車工業会80408470日本鉄鋼連盟8000東証取引参加者協会74257425日本電機工業会70007000石油連盟60008000不動産協会3300全国信用金庫協会3100日本百貨店協会日本自動車販売協会連合会2260●企業トヨタ自動車本田技研工業新日本製鉄前田建設工業東芝日立製作所松下電器産業サントリー合計※献金は各党の政治資金団体に対するもの。自民党は「国民政治協会」、民主党は「国民改革協議会」、自由党は「改革国民会議」、保守党(現・保守新党)は「保守政治協会」。一万円未満を四捨五入
<トヨタ自動車の献金額の推移(単位・万円)>
出所:読売新聞、朝日新聞他合計順位割り振り2002年6440自民2001年6440自民2000年6540自民1999年6540自民6200、自由3401998年6540自民5630、民主9101997年不明1996年不明1995年6440自民4540、新進1800、さきがけ1001994年不明不明1993年5450不明1992年650027自民党5900、民社党600