PFI刑務所をめぐる誘致合戦
執筆者:宮本 惇夫【フリ-ジャ-ナリスト】
初のPFI刑務所
民間資金を使った公共施設の整備、それをPFIと呼んでいることはご存知のことと思う。この度、その第1号PFI刑務所が山口県美祢市に作られることになった。
4月22日入札が行われ、「美祢セコムグル-プ」「NTTデ-タ・宇部興産グル-プ」「大林組グル-プ」の3グル-プによって提案内容、価格の総合評価の結果、セコムグル-プ(12社)が落札をした。入札金額は約493億円。
PFI刑務所は美祢市の約28ヘクタールの未利用地に建設され、男女初犯受刑者1000人を収容する。法務省ではそれを刑務所ではなく「社会復帰促進センタ-」と名づけている。
まず施設だが刑務所特有の高いコンクリ-ト塀はなく、代わって三重のグリ-ンベルトが周囲を囲む。といって受刑者に逃げられては困る。そこで外からは見えない特殊な透明壁を設けて脱走できないようにしている。部屋はすべて独房で遠隔操作の可能な電気錠やCATV監視が設置され、ICタグを利用しての受刑者の位置確認など先進的なセキュリティシステムが導入されている。
社会復帰促進センターは開かれた施設を売り物にしていて、広場や構内道路は市民にも開放される。地域のちょっとした憩いの場というわけだ。
地方自治体の誘致合戦
ではPFI刑務所の運営はどうなっているか。官民の協同体制で運営され公権力(手錠をかける。懲罰を命ずる等)行使に関しては官が担当し、それ以外の受付、巡回、教育、清掃、給食などのサポ-ト業務を民間が担当することになっている。
従事者は全体で250名を予定し、官員120名、民間130名になる。2007年4月の開設予定だ。
近年、犯罪が増え受刑者の数が急増、全国の刑務所では収容定員を大きく上回る過剰収容状態となっている。そこで民間資金を活用したPFI刑務所の発想が生まれてきたわけだが、この新刑務所構想に飛びついたのが地方自治体だ。地場産業の疲弊や工場の移転とうにより失業率は増大し財政赤字も膨らむ。産業ならぬ刑務所誘致によって雇用を創出し地域活性化に役立てたいというのが地方自治体の切なる願いだ。第一号PFI刑務所については50近い自治体が名乗りを上げたともいわれる。
誘致に成功すれば固定資産税が入り、刑務所関連産業も増加する。美祢市の場合、1000人の受刑者に250名の従業員。その家族も含めれば2000人近い町ができるわけで、経済効果もかなりなものになることが予想させる。
当初、誘致地区として美祢市とともに有力視されたところが鹿児島県の枕崎市。美祢市に決まった時の落胆ぶりは相当なものだったともいわれている。第2号PFI刑務所についても候補地選びが始まっていて、激戦の末、最近島根県の旭町に決定した。
満杯状況つづく刑務所
現在、刑務所は110%を超えた過剰収容状況という。その状況は今後も悪化することはあって改善されることは期待できない。PFI刑務所はますます増えていくことになり、地方自治体の誘致合戦もさらに激しいものになっていくであろう。
地域復興のために刑務所の誘致合戦を展開する。喜んでいいのか悲しんでいいのか。何とも寂しい地方政治であり経済政策だ。
すでに米国や英国では刑務所も完全民営化。いまの犯罪状況を見ると、早晩日本でも刑務所の民間経営時代がやってくることになろう。刑務所不足を作っているのはどこに原因があるのか。国はもちろんだが企業にも一端の責任がある。107人の犠牲者を生んだJR西日本ではないが、利益はもちろん大切。しかし度の過ぎた効率主義、利益至上主義ともいえる経営は勝ち組負け組をつく出し失業者、フリ-タ-を生んでいく。それが犯罪の温床になっていないだろうか。
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