吉岡幸雄著『日本人の愛した色』(新潮選書)を読んで、日本の色を一つひとつ自分のものとして覚える楽しみが増えた。
 江戸時代、贅沢を禁止され、灰色や茶色といった地味な色合いの服地の着用を余儀なくされた町民たちが目指した粋の先に微妙な変化の色彩文化が育まれた。
 百もの鼠色の違いが分かるのかと問われても答えようがない。しかし、「桜鼠」(さくらねず)と書かれるとなるほどイメージがわくではないか。
 茶色では「利休色」、「藍墨茶」。利休の着用していた帽子の色なのか。茶色に一滴、藍を落とした色ではないか。想像をたくましくすることができる。

桜 鼠利休色藍墨茶

 たくさんの色を並べて見るのは楽しいことだ。子ども時代に色鉛筆のセットは12色あった。ぜいたくなセットは24色だった。たくさんの色鉛筆を持つことが楽しかった。本物の色の違いを見比べるのも楽しいが、言葉の上で色を思い浮かべるのも実は悪くない。
 ここからは蛇足。コンピューターは何百万もの色を表現することができる。ウエブで日本の色を表現できたらと考えた。1000足らずの日本の色を表現するのは難しいことではないはずだ。瞬時にそう思った。が、おっとどっこいそう簡単に問屋はおろしてくれなかった。
 日本の色の見本を見せるウエブページはいくつも見つかった。それらのページをたんねんに見ていって、ウエブにはすでに限界があることを知らされた。
 東雲色(しののめいろ)と曙色(あけぼのいろ)の色表示コードはともに「#f19072」。紅掛空色(べにかけそらいろ)と紅碧(べにみどり)もともに 「#8491c3」であることが分かった。色表示コードは6桁、アルファベットのa-fと数字の1-10で表示するから数十万の組み合わせがあるはずだ が、日本の色の微妙な違いを表現できないのである。

東雲色曙色紅掛空色紅碧