2008年05月28日(水)高知工科大国際交流センター長 伴 美喜子
「マハティール前首相、UNMO離党」のニュースを知った時、2つの思いが頭をよぎった。
 ―マハティールは年をとって、気でも狂ったのか!?
 ―政治とは不可解なもの。何でもありなのだろうか。
 実はこのニュースは余震であった。大地震は2008年3月8日の第12回総選挙で起きている。UMNO(統一マレー国民組織)を中核とするBN(与党・ 国民戦線)は、解散時の198席を140席にまで後退させ、連邦を構成する13州のうち5つの州議会で野党に破れたのである。前回2004年の総選挙で9 割という史上最高の支持率を得ていながら、今回は「3分の2割れ」という大敗ぶりである。
 マレーシアの政党は単なる政党ではない。好むと好まざると、BNはこの多民族国家の屋台骨で、この体制は百年ぐらいは続くだろうと見ていた私は、「これ は大変なことになるぞ!」と思った。マハティール時代に定着したと思われる「国のかたち」が揺らぎ始めたのであろうか。
 5月の連休に「民族の政治は終わったのか-2008年のマレーシア総選挙の現地報告と分析―」と題する緊急?公開フォーラムが関西マレー世界研究会の主 催で開かれた。中堅・新進気鋭の研究者の分析を聞きながら、私はリーダーシップ(個人の影響力)ということを考えていた。今回マレーシアで起きていること は、マハティールという強いリーダーシップを失ったことによる現象ではないか。アブドゥラ首相はこの4年間何をしてきたのだろう。そして、MCA(マレー シア華人協会)やMIC(マレーシアインド人会議)の党首たちは?もう一つの鍵はアンワル元副首相の事実上の政治復帰。彼はこの国をどこへ導こうとしてい るのか。マレーシアは果たして民族横断的な社会に移行できるほど成熟しているのだろうか。
 マハティール前首相のUMNO離党は、ショック療法ではないか。「この国が危ない!マレー人、目覚めよ!」 1990年代後半の経済危機、政治危機の折 の前首相の、英断、実行力を思い出した。しかし、同氏が首相の座を引いてもう5年も経っている。人々の心が離れていっていることも事実だろう。
 KLの友人たちに聞いてみた。マハティールの強い支持者だった一人は言う。
「マハティールはもう出てくるべきではない。これから大変だ。マレー人社会は四つに分裂してしまったよ。マハティール、アブドゥラ、アンワル、そしてPAS(汎マレーシア・イスラーム党)。」
 遅かれ早かれ、ナジブ副首相が、首相となるだろう。ナジブの動きとリーダーシップが問われることとなる。
 私は拙著『マレーシア凛凛』で描いた「Sejahtera(平和な)Malaysia」が永遠であること、そして20世紀を代表するアジアの指導者マハティール前首相が晩節を汚さないことを祈らずにはいられない。

 2008年05月26日 マレーシア世界の窓(日本マレーシア研究会=JAMS)より転載
 http://jams92.org/