全国で沸き立つ100円バス論議の未来
2000年11月17日(金) 萬晩報 伴武澄
昨年8月25日に「100円で経営が成り立つ長崎の路面電車」というコラムを書いた。長崎市の路面電車は全区間100円。しかも乗り換え自由である。驚きはワンコインというだけでない。黒字経営が続いていて行政からの補助金を一切得ていないということである。
長崎でなぜ路面電車が100円で採算が合うか。それはただ乗る人が多いからだ。長崎の路面電車は市の形に沿って南北に長く走る。45万人の町で毎日6万に近い人が利用するのだから利用頻度はすこぶる高い。みんなが乗るから料金値上げの必要がない。安いからみんなが乗る。そんな好循環が続いている。
交通体系ががたがたになるので自重してほしい
きょうは100円バスのことを考えたい。3年前、京都のMKタクシーのオーナーの青木定雄さんから100円バス構想の話を聞いたことがある。「公共交通機関が高すぎるから乗らない。乗らないから採算が悪化する」ということだった。長崎の逆である。
その青木さんが1999年9月に、現行220円の市内路線に100円でのバス運行を申請すると関係者の間で大きな波紋が起きた。大阪運輸局は「京都の交通体系ががたがたになるので自重してほしい」と要請。青木さんは「京都市バスが大幅な値下げをすれば取り下げてもいい」と反論した。
その京都市が4月から中心部の循環バスを100円での運行に切り替えた。四条河原町周辺の週末の混雑を緩和するのが目的で、あくまで来年3月までの週末だけの試験運行である。利用客があまりに少ないので京都市交通局は10月からは沿線の商店街で買い物をした客への無料乗車券の配布を開始した。
この循環バスは河原町通り-御池通り-堀川通り-四条通りを結ぶ四角形を運行し、週末のマイカーの流入を抑制するのが狙いとされているが、商店街は河原町と四条に面した部分だけ、ウインドーショッピングをする距離だけにわざわざバスに乗る人がいるはずもない。おかげで青木さんは100円バスの申請を取り下げざるを得なくなり、Mkタクシーの京都市での新しい試みはいまのところとん挫した状況だ。
「安ければ乗る」という消費者心理を実証した西鉄バス
ところが福岡の西日本鉄道が始めた100円バスはどうも軌道に乗りそうな勢いなのである。1999年7月に試験的に福岡市の中心部でスタートしたが、ことし4月には本格運行に移行し、100円区間は福岡市周辺や北九州市など数十路線に大幅拡大した。
当初「現行の180円の運賃を100円に値下げするには乗客が1.8倍に増えなければ採算が合わない」としていたところ、半年後に利用者はちゃんと1.78倍にまで拡大した。「安ければ乗る」という消費者の心理をものの見事に実証してみせ、いま西鉄は100円バスの成功に自信をみせつつある。
100円バスの試みは東京武蔵野市が1995年11月から始めたものだ。民間委託による「ムーバス」と呼び、当初は「お年寄りに町に出てもらう」ためのコミュニティーバスを目指した。バスは28人の乗りの中型車両で200メートルごとに停留場を設けた。
たが、誰でも乗れるということで、市民の足となり、結果的に昨年度黒字化に成功してしまった。バス会社を定年退職した元運転手を中心に運行しているのが黒字経営の秘訣だそうで、安価で市民の足を確保することはやり方次第で可能であることを全国に知らしめた。
ハワイのバスは全島均一で1ドル
だがこんなことに驚いてはいけない。シカゴ在住の藪さんから昨年もらったメールではハワイでは全島1ドル均一だというのだ。ハワイのバスの料金は一律大人1ドル、子供50セントで、島の端から端まで乗っても均一。オアフ島の北海岸と南側を結ぶ路線は一周4時間で、利用客が多く、便数も多く常に満席だそうだ。
シカゴでは市バス、地下鉄、エル(高架鉄道)は共通の乗車券(プリペイドカード)で、一律料金の1.5ドル。オヘア空港からダウンタウンまで地下鉄で45分の距離でも、1.5ドルということだ。サンフランシスコでは一定の時間内ならば、一枚の乗車券で何回でも乗車できるという便利なシステムもある。
100円というワンコイン方式のバスはすでに日本全国50近い地域のバス会社が何らかの形で導入しているが、まだまだ経営的に認知されたとは言えない。当初は行政の財政的補助が必要かもしれないが、補助金頼りでは長続きしない。定年退職者の採用だけでなく、MKグループの構想にある路線タクシーなど自由な発想で既存業界以外からの自由な参入を認めることが100円公共交通機関の成功のかぎを握ることになるはずだ。