土佐山日記17 山の殺生
罠にかかり鉄檻に捕らえられた子イノシシは我々を見ると、何度も鉄柵に猛進する。その度にガシャン、ガジャンと鈍い音をさせ、鼻の上部から鮮血をにじませた。まもなく、あわれな子イノシシは高川三銃士によって、心臓を一突きにされ倒れた。25日の夕方、なんと、その殺生の場面に遭遇してしまった。
イノシシは山では害獣とされ、行政によって”捕獲駆除”が奨励されている。よほどのことがないかぎり人に危害は加えないらしいが、畑荒らしは日常的だ。だから、殺して当局に耳と尾っぽを持ち込むと奨励金6000円が支給される。
もちろんその肉は山の幸として人々の蛋白源となる。土佐山高川地区のイノシシ三銃士はミキヒロさん、マサゾウさんとチュウさん。
そのうちミキヒロさんはまだ経験2年。定年後、高川に帰り、狩を覚えた。「最初は嫌だったけど、山に生きるとはこういうことなのだと悟らされた」と言う。
前の晩、彼らと飲んでいた時に、「明日、イノシシを解体するけんど、見るかや」と言われた。土佐山アカデミー生として山に住むことになったら、どこかでイノシシの解体も体験するのではないかと想像していた。
イノシシの檻に近づくにつれ「殺生」という言葉が何度も頭をよぎった。ふだん都会では肉屋に並んだ肉しかみることはない。だが、われわれは誰かがどこかで「殺生」をしてくれているお陰で生きている。そう人間は殺生をして生きているのだ。
恐くないといえば、うそになる。もちろん恐かった。山に生きる意味を体験しなければと勇気を振った。不思議だったのは、恐いのは殺すまでの時間で、死んでしまった後のイノシシは単なる肉にしかみえなかった。殺生の場面から3時間、解体の最後まで付き合った。
土佐山では高川のほか3つの地区でイノシシの”駆除”が行われている。