沖縄の経済特区から、日本を見直す 平岩優
尖閣諸島をめぐる日中の領土問題や、普天間基地へのオスプレイ配備をめぐる動きなど、昨今、マスコミで沖縄のことが報じられない日はない。そういえば、沖縄振興策として鳴り物入りで導入された日本で唯一の経済特区(一国二制度)、沖縄特別自由貿易地帯(フリートレイドゾーン)はどうなっているのか。そう思っていたら朝のNHKラジオのビジネス展望というコラムで、フットワークの良さで定評のある経営学者の関満博氏が、その近況を報告していた。
東日本大震災後、あらためて沖縄経済特区の立地とその仕組みが注目されているというのだ。
1999年3月、経済特区は沖縄本島中部東岸の中城(ナカグスク)湾の埋め立て地400haのうち122haの区域が経済特区として指定された。特区内では保税制度が活用でき、輸入原材料にかかる関税を保留のまま、加工した製品を輸出できる。さらに進出した企業は、日本の法人税の実効税率が約40%なのに比較し、設立5年までが19.5%、6~10年までが23%と中国の特区に近い優遇税制が受けられる。関氏によれば、特区は分譲区画と賃貸工場の区画に分かれていて、分譲区画は大半が空いているが、賃貸区画は本土から約20社が進出し、ほぼ一杯とのことだ。
沖縄の2次産業は建設業が中心で、機械、電気などモノづくり系産業を誘致・育成することが沖縄県の悲願となっているが、進出企業の多くがモノづくりの基礎となる金型等の素形材産業が占めるという。
たとえば半導体製造装置に組み込む流量計などのトップメーカーである東京計測は東日本大震災後、10日もたたないうちに特区への進出を決定したという。同社の生産拠点が東日本に集中していたため、リスク分散を図ることが狙いだ。しかも、沖縄は今後世界経済の中心となる東アジアの真ん中に位置している。
http://www.pref.okinawa.lg.jp/tokku/point/05/index.html
さらに関氏によれば、沖縄では琉球大学工学部、沖縄工業高等専門学校や工業高校8校から、毎年約2500人の理系の新卒が輩出されている。高いといわれる電気代も冬場暖房が要らないため通年では本土並み。欠点としては部品・材料関連の周辺産業が乏しいため運賃負担が大きいことくらいだという。ちなみに沖縄本島は近代的な地震観測を開始以来、震度5以上の地震は1回しかないそうだ。
沖縄というと国防や領土問題ばかりがクローズアップする昨今、沖縄のポテンシャルをもう一度見直す必要がある。
もう随分前になるが沖縄大学の緒方修氏(現在、地域研究所所長)に那覇市内の綺麗に管理・整備された孔子廟に案内されたことがある。聞けば、台湾政府も管理費を負担しているそうだ。この孔子廟が立地する久米は琉球王朝のブレーン集団・久米三十六姓に由来するが、緒方氏によれば久米氏はリー・クワン・ユーや鄧小平などと同じく客家を出身母体とするという。また、現在も大勢の沖縄の若者が対岸の福建省アモイ大学に留学しているとも聞いた。
8月22日の毎日新聞(夕刊)で、沖縄近現代史の新崎盛暉氏は「尖閣諸島をめぐる日中の一部の人たちの挑発合戦にもっとも迷惑しているのは沖縄だ。……最も近く、漁業で利用してきたのは沖縄だ。日本が台湾を植民地にした時代、漁業技術の進んでいた沖縄から台湾へ指導に行き、台湾から尖閣周辺に出漁するようになった。一方、台湾の農民が石垣島でパイナップル栽培を教えた。尖閣諸島が共栄圏になっていたのだ。この歴史を参考に、沖縄や台湾の漁民、歴史研究者が時間をかけて話し合えば良い方向に進む。こういう平和的解決を探るべきだ。……米国は沖縄を施政権下に置いていたのに尖閣の位置づけをあいまいにした。日本に紛争の種を残しておく方が、日本を日米同盟に縛り付けるのに有利と考えたのではないか」と述べている。
ところで、地震の話に戻るが、先日、南海トラフ地震の政府による被害想定が出され、あらためて被害の甚大さに衝撃を受けた。しかし、東日本大震災から、すでに1年半が経過するのに首都機能移転の議論がなされないのは、どういうことだろう。もちろん、震災後の復興支援策や除染を優先させなければいけないが、今回の大震災でも地震予知が不可能なことをあらためて知らされた。早めに準備を始めた方がよい。
経済面で日米を機軸に据えることはすでに過去のことになりつつある。とすれば太平洋側から、アジアに近い福岡県や富山・新潟県あたりに遷都することも考えられる。
世界史が大きな転換点を迎える今、明治以来続いてきた日本という近代国家が制度疲労を起こしている。そろそろ新しい設計図が必要だ。