土佐山日記23 竹のお玉
午前中、土佐山アカデミーがある山の頂に五右衛門風呂が出来上がった。さっそく薪に火を付けた。昼に山に上ってきたおちょうさんが嬉しげに風呂桶のへりをなでつけた。
アカデミーの生活も終盤を迎えている。先週、完成する予定だったツリーハウスは大雨のために休講となり、スケジュール的に僕らの手で完成することができなくなると心配していた。しかし、今日、浜氏先生らがお助け作業をしてくれることになり、こちらも夕刻に完成した。われわれ二期生のモニュメントとなる。
午後は隣の旧鏡村で炭焼きを始めいまではお玉など竹で家庭用品を制作する下本一歩さんを訪ねた。一歩さんはまだ34歳、10年前に炭焼き窯をつくりたいと思い講習に通い、ほとんど独学で炭焼きを始めた。
一歩さんのお玉やスプーンは趣味で作り始めた竹細工だった。炭焼きのことが高知新聞に取り上げられ、それを読んだ高知市内の婦人とハガキのやりとりが始まった。その婦人の紹介で高知市内のギャラリーで作品展を行うことになった。たまたまその作品展をみた東京の業者の目にとまり、次々と評判が高まった。今年に入り、イギリスからも注文が入るようになった。
質問されると、しばらく宙を見つめ、とつとつと語る自然児だ。炭焼きはなりわいとして始めたものではなかったが、その延長で竹細工が世に認められた。話しぶりからすると「出会いに恵まれた」ことになる。
作品づくりは「使えるもの、使いたいもの、満足してもらえるもの」が基本。作業場に作品はほとんどなかった。「在庫はありません。追われてつくっている感じ」だからだ。5年ほど前、子どもができた。生活ができないので辞めようかと思ったときに、半年一生懸命つくってみた。展示会で作品はほとんど売れてしまった。「子どもが生まれたことが人生の分かれ道となったんですね」と淡々と話す。
一歩さんの作品は家庭用品としては比較的高価だ。お玉は4200円もする。それがちゃんと売れてしまうのだから、ファンからすると高くはないのだろう。一歩さんは「伝えるものをつくりたい」と最後に言った。
下本一歩 竹のお玉
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