日本への定着志向上昇 国際化する雇用 1988年7月29日
「もう一度人生があるとしてもリコーに勤めたい」-こう言って会社を喜ぱせているのはリコーシステム事業部のウェファーさん(27)。アイルランド政府の訓練雇用制度で4年前、リコーに派遣され、2年間の研修終了後、リコーの第一号外国人社員となった。
担当はファイリングシステムの欧州向けソフト開発。5人チームの1人としてコンピューター画面とにらめっこの毎日だ。仕事の後は日本語のレッスンも欠かさない。
神奈川県秦野市の2DKの狭いアパートに妻子と住み、大森事務所まで2時間の道のりを満員電車に揺られて通う。
かなりハードな毎日だが「リコーは長期的ゴールを持っているのが強み。短期の仕事の良しあしで評価しないので安心して働けます」と企業に腰を落ち着けた感想を語る。
企業の外国人雇用で採用担当者がそろって口にするのが「ノウハウだけを盗まれて短期で帰国してしまうのではないか」という懸念だ。確か現状では「在籍は平均して3年」(ソニー、神戸製鋼所)と心もとない。
しかし、定着志向の外国人社員も確実に僧えている。東京外国語大学からこの春、日興証券に入社した中国人の許亮さん(34)は今、成都にいる妻子を呼び寄せる手桃きを申請申だ。「なぜ中国人だと戻らなければいけないのか。働く口があるところで働くのは当然でしょう」と逆に不思議がる。日本人でもうらやむ高賃金の証券会社なら当然とうがった見方ができないわけではないが、いかにも国境にこだわらない中国人らしい発想だ。
東芝の電子部品国際事業部法務担当のベトナム人、ホマン・ミン・タムさん(34)は入社7年目のベテラン社員。2年間のニューヨーク駐在もこなし、2年前の日米半導体摩擦での働きぶりは社内でも評判だった。
「まだ時々、社内で新しい部門の人に会うと気を使うが、日本人でも外国人でも安定した生活が欲しいはず」と訴える。昨年、定着のため千葉県佐倉市のユーカリが丘の土地付き住宅を購入した。
外国人社員の日木滞在が長期化すると、会社内での人間関係や言葉のほかにも、地域の日本人社会への同化といった難しい問題も起こってくる。
バイオテクノロジー(生物工学)で有名な岡山市の林原国際開発グループ次長のパキスタン人、ライースさん(44)は5年前2人娘の教育のため、インタナショナルスクールのある神戸市に転居、新幹線で通勤を始めた。
「娘たちの顔は明らかに外国人。日本人と同じ教育を受けさせたいけど、岡山弁しかできないガイジンなんて日本社会は求めていませんよ」とため息を漏らす。どんなに溶け込もうとしても「日本では外国人はしょせん外国人でしかない」というのだ。
日本企業に働く外国人社員が増え、日本社会への定着志向も高まる。豊かな国ニッポンへのヒトの流れは太くなるばかりだ。
外国人社員の存在は、企業ばかりでなく、日本社会そのものに国際化とは何かを問いかけているといってよいのかもしれない。