「書類審査面など手続きが煩雑なうえに、労働許可が下りるまで申請してから3カ月もかかるんですよ」-企業の外国時受け入れが活発化するにつれて、就労目的の入国を厳しく制限している出入国管理及び難民認定法に対する不満が、採用する側、される側双方から高まっている。
 入管難民法では、労働目的の入国は原則禁止。特別に認められているのは、事業経営者、大学教授、コックなどの熟練労働者、歌手、スポーツ選手といった人たちに限られている。企業への就職は語学力のように外国人の専門性や特性が生かせる場合だけ、例外的に法相がいちいち個別に許可するのが建前。外国人採用が増加する一方で「申請が許可されるかどうか相手も不安を抱く。つなぎ止めるのに苦労する」(セイコーエプソン)という実態だ。
 ようやく政府も、専門技術者、ソフト技術者、介護人などの福祉医療関係者などの職種への在留資格の拡大や、入国審査手続きの簡素化を図るため入国難民法の改正案作りに取り組んでいる。「日本企業の海外進出が盛んなのに、外国人の受け入れに消極的とみられたんでは、新たな国際摩擦になりかねない」と法務省の森本一成調査官。
 だが、外国人への在留資格拡大には、賛成の声ばかりではない。いうまでもなく、最も慎重なのは労働界だ。
 「例えば、造船の溶接工はたった2、3日で養成できるという話もある。これを専門技術者と認めれば、海外から大量に入って国内労働者が圧迫されるのは明らかだ。われわれとしては解釈に幅が出るグレーゾーンの範囲を狭くしておきたい」と全日本民間労働組合連合会(連合)の奥沢利英事務局長はいう。
 総評はさらに警戒的で「外国人労働者の受け入れを拡大するにしても、各年ごとに上限のガイドラインを設定すべきだ」と総量規制論を打ち出し、建設・運輸、介護・看護の分野の開放は認めないと厳しい姿勢だ。
 在留資格の基準を拡大していけば、結局、現在一切認めていない単純(未熟練)労働者問題にいきつく。「単純労働のお明確な定義がないため、専門技術者との間の線引きをどこにするかによっては、大量流入の事態も起こり得る」(労働省)。労働界の懸念もこの点にある。
 しかし観光ビザや就学ビザで入国し、不法就労(資格外労働)している単純労働者は既に7万人ともいわれている。
 安い賃金で熱心に働く発展途上国からの単純労働者の合法化は、企業の論理からすれば歓迎だ。特に、労働力確保に悩む中小企業や零細商店にとっては願ってもない話である。「近い将来、日本国内の工場組み立てラインでアジア人が働く姿は、当然予想されます」と本田技研工業のある課長は言い切る。行政の遅れと対照的にどんどん先行する現実が目立つ。
 総理府の世論調査では、「単純労働者受け入れを認めろ」との回答が52%に達した。「正直言って驚きました。世論には配慮しなければなりませんし、単純労働への対応が今後最重要になってくるでしょう」と森本入国管理局調査官も指摘する。
 経済大国日本に職と機会を求めて押し寄せる外国人。雇用の国際化のうねりは高まるばかりだ。日本経済の実力アップとともに物も金も多くのハードルを越えて原則禁止から原則自由の道をたどった。人の開放は―難しい選択が、時を待たずに待っている。(おわり)