海外から技術研修続々 国際化する雇用 1988年7月28日
静岡県袋井市郊外の丘陵地に広がる茶畑。昨年7月完成したミネベアの開発技術センターに隣接する試作工場では、約1000人の従業員に交ざって260人の若いタイ人の研修生が働いている。5月に稼働したばかりのタイのロップリー工場の従業員たちだ。秋から来年にかけて生産を開始する磁気ヘッドや小型モーターの組み立てに先駆けて半年から1年の予定で研修を受けている。
シティポーン君(24)は来日5カ月目。磁気ヘッドのラインの作業にも慣れ「仕事も面白くなってきた」と笑う。時には、現場でタイ語と日本語のチャンポンで日本人との議論の輪も広がるという。
研修生の賃金は、現地での月給と同額の4、5000円にプラス国が海外からの研修生に最低限支給するよう定めている月額6万5000円の研修費。全寮制食事付きだから、悪くはない水準だ。「1年いると5、60万円ためて帰る人もいる」とミネベアの大石武久総務課長。
ミネベアでは主力製品の大部分をタイ、シンガポールに移している。「新工場やラインの増設を前に生産工程をみっちり身に着けてもらうのが目的。最新鋭の設備で先端のものを作るので、研修の長期化は避けられない」(榊原敏一取締役)と会社側。
研修の人数が増え長期化しているのは、ミネベアに限らない。法務省の調べでは62年の研修ビザ入国者は前年比11%増の1万7000人にも上る。「研修という名目だが、実は安い労働力輸人ではないか」という批判も出てきている。
だが、企業側からすれば、海外での生産拠点が増え、技術も高度化する中では日本での集中教育・研修は当然の流れだ。
年間1200人の海外研修生を受け入れている東芝では「50カ国にも日本から指導員を派遣していたのでは技術移転に問に合わない」と断言する。セイコーエプソンも「ライン実習で半年、技術者となると1年が必要」と研修長期化傾向の背景を説明する。
送り出す方も積極的だ。アイルランドの産業開発庁は、同国の理工系大卒者を先進諸国企業に研修生として送り込む訓練雇用制度を5年前からスタートさせた。初めは欧米企業が多かったが、今では日本企業が最大。昨年はリコー、パイオニア、ミノルタなど一流企業に50人が”入社”した。
これまでの実績は39社100人。2年間の研修終了後は自由で、そのまま就職しても帰国してもよい。「9割が滞在を希望し、研修した企業に就職している」(産業開発庁日本事務所)
逆出向という形で外国人が日本の企業で働くケースも増えてきている。
ソニーのテレビ事業本部大崎工場で働く米国人のマニュエル係長(31)はソニー・アメリカからソニー本社への出向組の一人だ。担当は業務用カラーテレビのマーケティング。日常業務をこなしながら、ソニー本社での人脈づくりに励み、企業風土や経営理念を学んでいる。もちろん将来の幹部候補生。
ソニーはこうした制度を10年前から始め、61年からは「東京トレイニー制度」として定着させた。対象は海外子会社20代後半の優秀な人材。期間は1-3年で、人数は年間6人とまだ少ないが今後さらに増やす方針だ。受け入れに当たる佐藤真人国際人事部統括部長は「部品や製品輸入も努力しなけれぱならないが、ヒユーマンリソーシズ(人的資源)も輸人したい」と言う。
企業活動に国境がなくなるにつれ、技術ばかりでなく、労働にも国境のなくなる時代が近付いている。