原子炉の廃炉処理で独自の金属切断技術を開発中の通産省四国工業技術試験所(高松市。木村裕所長)は、このほど「溶極式ウオータージェット方式」によるステンレス鋼80ミリの水中切断に成功した。これまでに商用原子炉の外側の容器(厚さ約250ミリ)を切断する水中ガウジング法も開発しており、今回の成功で内部のステンレス製部品もほぼ切断が可能となり、同試験所は「基本的な切断技術は出そろった」としている。既に法定寿命(15年)を迎える原子炉もあり、廃炉対策が急務とされるなかで、わか国独自の廃炉技術が実用化へ大きぐ踏み出した意義は大きい。
 実験に成功したのは、同試験所機械金属部長の浜崎正信工学博士。原子炉解体は財団法人「エネルギー総合工学研究所」が通産省の委託を受けて研究しているが、浜崎博士のグループは。これまで開発した水中橋げた工事などの水中ガス切断技術を数年かかりで改良、原子炉に応用できないか、と研究を進めてきた。肉厚のステンレス鋼の水中切断は難しく、これまで米国でプラズマ法で80ミリの切断が伝えられているだけ。
 溶極式ウオータージェット方式は、水中で軟鋼ワイヤを片方の電極とし、ステンレス鋼との問にアーク(火花)を発生させ、溶けた金属をジェット水で吹き飛ぱす方法。放射能で汚染された部分を切断するため、作業はすべて遠隔操作、しかも水中で行う。
 米国で開発中のプラズマ切断法と比べ①使用電圧が6分の1(35ミリ)と低く取り扱いか安全②切断溝幅が半分(約5ミリ)③ガスを使わないため放射能の放出量が圧倒的に少ない④切断による金属かすはステンレスと軟鋼の合金となり、磁石で回収が容易ーなど作業面や放射能に対する安全性が優れている。
 今回は試験所の電源の都合で35ボルト、2000アンペアで実験したが、電力を上げれば120ミリくらいの厚さなら十分切断できると同博士はみている。
 原子炉の容器はステンレス・クラッド(鋼材にステンレスを溶接したもの)でできており、材質の異なる金属を同時に水中で切断するのは困難とされていたが、同試験所は昨年、独自開発した水中ガウジング法で肉厚158ミリの切断に成功、このほど商用炉の厚さを上回る300ミリの切断にもメドがたったとしており、今回の溶極式ウオータージェット方式と台わせ
て原子炉内外部分の切断が可能となった。
 浜崎正信博士の話 わが国の水中切断技術は欧米より優れており、切断に付随していくつか実験が残っているが、これで原子炉切断の基本的な技術は出そろったとみてよい。(四国新聞1971年10月6日)