1981年6月30日、徳島新聞夕刊二社面トップ掲載

 【高松】「手話コーラスで歌のリズムやメロディーを楽しんでください」-高松市のボランティアグループが、従来の手話に体の動きを加えた新しい表現方法を編み出し、ろうあ者に音楽の感動を伝えようと試みている。「Mr(ミスター)・ウェルビー」という名前でコンサート活動を続けているが、明るく躍動するコーラスがろうあ者たちにも受け入れられ「音楽のもう一つの楽しさがわかった」と好評。しかし、手話の新しい可能性を見つけようとする同グループに対して、「手話は生活の手段」とする福祉関係者から「手話をもてあそぶもの」と苦言もよせられたおり、論議を呼んでいる。
 手話コーラスを始めたのは、高松市職員、織田賢二さん(25)。全国のボランティア活動「わたぼうしコンサート」のメンバーでもある。ことし四月「歌のリズムを体全体で表現し、ろうあ者にもっと楽しみを」と仲間を募り、高松市内の保母、OLを中心に十五人が集まり活動を始めた。
 ステージでは現職のトレーナーに白いミニスカートを着て手だけでなく体全体で手話を”踊る”。いまのところ持ち歌は人気ロックグループの曲や「地球の仲間」(国際障害者年のテーマ曲)、「翼を広げて」など五曲。
 メンバーは毎週土曜日の午後集まり、手話ができる三人を中心に歌詞を手話に直しながら、みんなで振り付けを考える。それぞれにコーラスを通して手話を覚える一方で、ろうあ問題を考える。公演は月約一回、これまで全国ろうあ者大会、わたぼうしコンサート、仁尾太陽博などのステージで披露。「詩の一つ一つを十分理解してもらえたか心配だが、今までになかった、すばらしかったといってもらえたのがうれしい」という。
 こうしたMr・ウェルビーに対して、三十年間ろうあ問題に尽力してきた全日本ろうあ連盟参与の伊藤・祐氏は「ろうあ者に対する差別の歴史や実際の暮らしのなかから手話は学ぶべきで、もてあそんではいけない」と派手な同グループの動きを厳しく批判する。
 「百万人の手話」の著者丸山浩路氏(神奈川県ろうあセンター)はこうした論争を受けて「手話の効用は福祉としてろうあ者のハンディをカバーする面と、より豊かなコミュニケーションの手段としての面と二つあるが、手話コーラスは、ろうあ者にとってこれまで無用とされていた音の分野を開くもの」とMr・ウェルビーの今後の活躍に期待を寄せている。(共同)